社会の変動を背景に、今、保育者には一層高い資質・力量が求められている。他方、養成期、初任期、中堅期は成人形成期と重なり、アイデンティティ形成という発達上の課題に直面する時期でもある。筆者は、しっかりと子どもの発達を支え援助していくこれからの保育者には、専門的知識・技能の修得のみならず、保育者自身の自我の成長発達を志向した養成とその後の継続的支援が不可欠と考える。そこで本研究では、保育者固有のアイデンティティ形成と再統合の過程をこれまでの研究から整理する。また、得られた知見、とりわけ保育者のアイデンティティの「揺らぎ」に焦点をあて、自伝的記憶としての「揺らぎ」体験を活かした支援の具体的方途を提示する。もって、保育者の成長支援と実践の質保証を図ることを目指す。 最終年度にあたる本年度は、主に、保育者の自伝的記憶であるアイデンティティの揺らぎ体験と保育者効力感等との関係を明らかにした。西山(2009)によれば、保育者効力感は、アイデンティティと強い関係があり、保育者の力量形成の基盤となる。具体的には,自伝的記憶としての揺らぎ体験を持つ保育者とそれを持たない保育者では,保育者効力感に違いがあるのか,揺らぎ体験の契機と保育者効力感との関連はあるのか,等について検討した。その結果,揺らぎ体験を挙げることが出来る保育者は,揺らぎ体験を挙げることが出来ない保育者より,現在の保育者効力感が高いことが明らかになった。また,揺らぎ体験の契機による,保育者効力感の相違は見出されなかった。さらに、テキストマイニングによる量的な分析等から,保育者効力感の高い保育者の揺らぎ体験は,総じて自我関与性が強く,現在に至っては,自らの連続性を確認する役割を果たしていることが示唆された。これらの知見を踏まえ、保育者のアイデンティティ形成における「揺らぎ」を活かした支援プログラムの枠組みを提示した。
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