研究課題/領域番号 |
19K02606
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研究機関 | 中村学園大学 |
研究代表者 |
笠原 正洋 中村学園大学, 教育学部, 教授 (10231250)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 子育て支援 / 模擬養育者 / 反転学習 / 探求的学習理論 / 教育プログラム / 保育志望学生 |
研究実績の概要 |
本研究課題は,子育て支援の重大な役割を果たすことになる保育者志望学生と地域子育て支援人材の双方の子育て支援に対する能力の育成を図る教育プログラムの効果を検証している。2019年度は,これまで開発してきたプログラム効果検証過程で明らかになった問題を改善するため,①対話実例や個別支援計画の見本などを「方向づけのベース」として掲載するなど反転学習教材を精緻化する。併せて事前学習方法に示範者による対話の動画(e-learning)教材を作成・導入する。②模擬療育者(SPs:Simulated Parents)による学生の対話練習の評価システムを改善する。SPsに対しては到達度を評価する評価項目の説明を加え評価ポイントを修正した評価表を提示し,学生に対してはSPと学生の相談行動評価表を作成しSPと学生の相互評価を導入する。③対話練習を録画し,ビデオモニタリング法による振り返り授業を導入する。これらの改善策を講じ,保育志望学生の子育て支援能力が向上するかを検証する。検証の測度は,知識テスト,対話や支援計画のルーブリック評価,そして「相談観に関する信念尺度」や「児童虐待防止に関する対応行動評価尺度」の自己評価尺度である。一方,SPsに対しては,プログラムの評価とSPs自身が教授内容を理解し行動しているかを確認する指標として,毎回の実践に関する学生評価を求めた。併せて新規SPs募集のためのニーズ調査を実施し,募集後に事前研修を経験者SPsとともに実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
教育プログラムの効果検証は2019年度「保育相談支援」受講者51名の結果を2018年度(59名),2017年度(57名)の結果と比較・検討し日本発達心理学会にて報告した(笠原, 2020)。知識の定着や相談観の変化,基礎的応答技法の利用についてはこの教授形式の効果が認められた。しかし個別の支援計画策定に関する情報収集や実際の計画案,多職種協働の利用に対する効果は不十分だった。①反転学習の精緻化について令和元年度は平成30年度の反転学習教材を加筆修正し総頁数127から総頁数144となった。全体的に読みやすさを加味して小修正を行った。新たに追加した内容は虐待被害を受けた子供のトラウマ症状やその対応理論であるARCの枠組みである。これについて現職保育者を対象に調査を行い日本保育者養成教育学会(笠原, 2020)にて報告した。②基礎的応答技法および解決に焦点を当てたアプローチの2つのテーマ単位に関して相談対応行動評価尺度を導入した。SPsは評価尺度があるがゆえに評価する側面や内容は明確になったが文章で記述する量が増え負担が増したという評価であり,課題が残された。学生も同様の評価だった。③対話練習を録画し動画教材を作成したが,ビデオモニタリング法の導入までは至らなかった。 模擬養育者に各授業回の実践評価を求めプログラムに対する時間系列での評価を整理しその結果を日本保育学会にて報告した(笠原, 2020)。テーマ単位1の基礎的応答技法は批評や統制という学習ステップを経てかなり学生に定着していたと推測され,テーマ単位2の解決に焦点を当てたアプローチも肯定的評価が増え定着していったことが読み取れる。しかし,個別の支援計画を作成するというテーマ単位3では,支援目標の設定が十分に達成されていないことが示された。教授内容をさらに厳選し学生の学習ステップの外化,批評,統制を確保する必要があった。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の実施の効果検証から全体の教授内容を見直して,テーマ単位3の個別の支援計画作成の授業内容を整理する必要がある。従来,この教授内容は子どもと保護者の両者の個別支援計画の作成だった。これについては教授内容の達成状況と実際の保育現場での現状をふまえ,子どもの計画作成に焦点化する教授内容に改善する。保護者の個別支援計画については保育施設等と児童相談所や福祉事務所等の関係機関と協働を加味して作成することが多いため,この技量を保育志望学生や初任者に求めるのは課題が高すぎるからである。 また反転学習教材も144頁となり長すぎる可能性がある。これについても「保育相談支援の基本的知識として理解する内容」と「授業で外化し批評,統制すべき内容」とに分けて教材化する必要がある。 なお,年度末に予定していた次年度に向けたSPs事前研修については以下の通り進捗を図る予定である。一つは2019年度実施後に加筆修正した反転学習教材の郵送による事前資料送付,ならびにICTを活用した遠隔教育方式のSPs研修の実施である。その際,作成した動画教材も取り入れ実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染防止のため研究成果発表を予定した2学会の出張経費が不要となった。また令和2年3月に予定していた模擬養育者(SPs)研修も中止したためその経費も不要となった。研究の進展とともに改善できる見込みである。
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