研究課題/領域番号 |
19K02606
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研究機関 | 中村学園大学 |
研究代表者 |
笠原 正洋 中村学園大学, 教育学部, 教授 (10231250)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 教育プログラム / 探求的学習 / 子育て支援 / 模擬養育者 / 保育志望学生 |
研究実績の概要 |
2020年度はコロナ感染防止の観点から研究を見送った。しかし,この状況は2021年度になっても続いたため,研究計画を一部変更し,マイクロソフト社のチームズを用いた完全ウェブ形式(ライブ配信型授業)により研究を推進した。課題は虐待防止や子育て相談の知識と行動を教授する教育プログラムの効果測定である。この教育プログラムは,エンゲストロームの探求的学習に基づき4つのテーマ単位,T1「基礎的応答技法」,T2「解決に焦点を当てたアプローチ(SFA)」,T3「児童虐待の他職種連携」,T4「個別の支援計画の策定」である。これらの中でT1,T2に対して,模擬養育者(SPs:Simulated Parents )によるSPs実習を導入し,学生たちが内化された知識やルールを外化し評価・統制していく学習ステップを構成した。2021年度は,2019,2020年度の研究から明らかになった以下の課題を検討した。①事前学習教材のコンテンツの精緻化:授業1回あたりの事前学習教材が増加したため方向づけのベースを整理し,総頁数144頁から132頁へ縮小したことが理解に影響したか否か,②模擬療育者による学生の相談対話の評価方法の改善と学生の自己評価表の改善:2019年度までは学生の相談行動に対する到達度を評価する評価項目の説明を加え評価ポイントを修正した評価表を提示したが文章による評価が負担であるという意見から12項目からなる対話行動評価尺度を用いたことが評価の妥当性に影響していないか,③SPs実習に代替した示範(動画)実習の導入:COVID-19禍において研究を見送った2020年度にSPs実習に変わり示範実習(動画視聴と示範)を行った方が個別支援計画の達成度が高かったためその効果を検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
教育プログラムの検証は,保育士資格必修科目「保育相談支援」に参加した学生79名を対象に行った。①この領域に関する知識の達成度は2019年度から2021年度の順に96.1%,94.2%,92.3%を若干低下傾向にあるがすべて9割以上だった。知識の定着度からこの教育プログラムの精緻化に関して問題はないと考えられた。②SPsにはSPs実習ごとに学生の相談行動に対して12項目からなる評価尺度と自由記述による評価票への回答を求めた。この尺度はテーマ単位1(T1)に関しては受容・自己決定・相談満足・基礎的応答技法を,テーマ単位2(T2)に関してはSFAで求められる問いの生成と解決の共同構築の評価から成る。SPs実習ごとに,そのプロフィールの変化を追跡したところ,実習の評価を質的に検討した笠原(2020)とほぼ同様の結果を確認することができ,この評価尺度に妥当性があることが示唆された。T1とT2に関する評価尺度の評定平均値は最終的には向上した。これを裏付けるように,相談観の評定値も予想通り指導役割意識が有意に低下し,連携,称賛や解決の構築を重視する相談観が有意に向上した。また不安感も有意に低下していた。③ SPs実習に代替した示範(動画)実習の導入を検証した。2021年度はSPs実習を行わずに示範実習(動画視聴と示範)を実施し,最終試験で子どもの模擬事例に関して「情報収集」と「個別支援計画案」をルーブリック評価した。高評価段階に占める人数割合は,2021年度の「情報収集」の達成度では2019年度と2020年度のほぼ中間であったが,「個別支援計画案」の達成度は2020年度とほぼ同程度の87.3%だった。以上より,完全なWeb状況下でこのプログラムを実施したとしてもこの教育プログラムの効果が検証された。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19禍の影響を受けことからプログラムの教授形式(示範や実習,紙上練習等)や社会的様式(対面またはWeb)の変更を余儀なくされ,プログラムの効果検証からもテーマ単位の順序性や社会的様式を再検討する必要に迫られた。その結果,保育者志望学生を対象とした効果検証に留まり,このプログラムに参加した地域子育て支援人材(模擬養育者である保護者)の子育て支援に対する能力育成に関する調査が不十分だった。今後,この面の調査により注力する必要がある。 この教育プログラムの一般化のためには,効果検証と同時に,経費面のスリム化も求められる。そのため,テーマ単位の順序性と教授様式と社会的様式を十分に検討したうえで,SPs実習の回数を減じてもこれまでと同様の効果が認められるかを検証する必要がある。具体的には,保育者志望学生が養成校時代に最低限学習すべき事項と入職後のチーム対応で協働できるための事項とに整理したうえで,後者に関してはその基本となるプログラムコンテンツを準備するだけに留め,コンテンツの内容を検討する必要がある。そして前者に関しては,動機づけ・内化・外化・批評・統制からなる学習ステップを意識したプログラムを実施し,その効果を最終年度に検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染防止のため研究成果発表を予定した3学会の出張経費が不要となった。また令和3年3月に予定していた模擬養育者(SPs)研修も中止したためその経費も不要となった。研究の進展とともに改善できる見込みである。
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