研究実績の概要 |
本研究の目的は、幼稚園教育要領(2017)において作成が求められている幼稚園の「預かり保育」のカリキュラムを絵本に着目して開発することである。「預かり保育」は、実施形態も利用する園児の実態も多様であるため、カリキュラム作成が容易ではない。そこで本研究では、子どもが生活する場のどこにでもある絵本に着目し、①縦断調査で子どもの生活全般を取り上げ、子どもと絵本との関わりの発達的変化を学びを中心に描き出しながら、②横断調査で先進園を訪問調査し、③「預かり保育」の絵本カリキュラムを開発することを目指す。 2021年度は、①縦断調査において、5歳児2クラス43名を対象に協力園の預かり保育の実施状況を把握した。協力園の預かり保育は、週3日、11カ月間にのべ94回実施され、全体の利用者はのべ1,178人、5歳児の利用者はのべ408人であった。5歳児の利用回数は、60回以上2人、30回2人、10~14回6人、8~5回11人、4~1回10人、0回12人であった。5歳児の1日の平均利用者は7.3人であったが、3学期は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い利用者が制限されたため、学期ごとに見ると1学期5.7人、2学期4.3人、3学期2.9人であった。 このように3学期は、預かり保育の受け入れが制限され、園への関係者以外の立ち入りが禁止されたため、3学期に予定していた観察及び保護者アンケートが実施できなかった。1,2学期の観察からの主な結果は、以下の通りである。絵本は1人でも友達と一緒でも楽しめるため、安心して過ごす居場所を提供する機能を果たしていた。選書においては、興味を引きやすく文字が読めなくても楽しめる仕掛け絵本は5歳児でも有効であり、年少の子どもと共有する姿も多く見られた。一方で、1人でじっくりストーリー絵本をよむ5歳児の姿も見られ、発達や興味に応じたカリキュラム作成の重要性が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は2021年度までに得られた3,4,5歳児2学期までの縦断研究の結果を踏まえ、5歳児3学期の縦断研究を重点的に行う。1,2学期はカリキュラムを作成しつつ観察を行い、その妥当性を検討する。また横断調査として、預かり保育先進園への視察調査を実施する。これらの結果を総合的にまとめ、預かり保育の絵本カリキュラムの作成を目指す。 (1)縦断研究では、1~2学期は月に1回程度、これまでの結果をもとに、特に②預かり保育について、利用者全体の(a)絵本との関わり、(b)絵本環境、(c)絵本に関わる活動、(d)学びの4点について観察する。場面は、預かり保育の部屋全体を録画できるようにビデオカメラを設置し撮影するとともに、写真撮影、及びフィールドノーツへの記録も行う。加えて保育者へのインタビューを行う。各学期の終わりには、研究結果を預かり保育担当者と振り返り、絵本環境の再構成を行うアクション・リサーチの手法をとる。3学期は、①幼稚園の正規の教育時間についても、預かり保育実施日に週1回、②同様、観察、及び保育者へのインタビューを実施する。③家庭に関しては、学年末3月に、保護者に園児の(a)家庭での絵本との関わり、(b)絵本環境、(c)絵本に関わる活動、(d)学びについて問うアンケート調査を実施する。この調査は、全学年を対象とする。 (2)横断研究として、預かり保育のカリキュラムを作成・実施している先進園を訪問調査する。新型コロナウイルスの感染が収束せず、訪問が難しい場合は、オンラインインタビューなど他の方法を考え、実施する。 (1)(2)の結果をまとめ、預かり保育の絵本カリキュラムの作成を目指す。またこれらの研究成果は、国内の所属学会(日本乳幼児教育学会:12月オンライン形式、日本発達心理学会:2023年3月)で発表するとともに、カリキュラム冊子を作成し公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
主要な理由は、人件費・謝金の未使用である。人件費として、観察の録画データの文字化と保護者アンケートの結果入力を計上していたが、3学期に予定していたこれらが実施できなかったため、次年度に繰り越した。2022年度は、1~2学期はこれまで収集してきたデータを質的・量的に分析しながらカリキュラムを作成し、月1回程度の観察でその妥当性を検討する。3学期は週1回程度の観察を保育現場での勤務経験のあるアルバイトに依頼し、データ収集するとともに分析を進める。年度末にはアンケート調査を実施し分析する。それらをまとめ、預かり保育の絵本カリキュラムを作成する。 次年度は1,740,000円の予算を使用する予定である。主として(a)縦断研究にかかわって、1,560,000円。内訳は物品費400,000円(データ保存用HD100,000円、絵本・書籍等100,000円、インクトナー等200,000円)、人件費800,000円、研究代表者の所属異動のため協力園への旅費(東京~奈良、12回)360,000円。(b)横断研究にかかわって120,000円。内訳は、2箇所の視察調査旅費10,000円(横浜・東京を予定)、その他学会及び研修会参加等のための旅費50,000円、学会年会費・参加費等60,000円。(a)(b)の成果として、カリキュラム冊子作成60,000円を計画している。
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