研究課題/領域番号 |
19K02625
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
是枝 喜代治 東洋大学, ライフデザイン学部, 教授 (70321594)
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研究分担者 |
杉田 記代子 東洋大学, ライフデザイン学部, 教授 (80171156)
田尻 由起 東洋大学, ライフデザイン学部, 助教 (90802249)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 障害乳幼児 / IFSP / 発達支援 |
研究実績の概要 |
2020年度は、全国の児童発達支援センターに対して実施した悉皆調査(498機関を対象、回答数154機関(回収率:30.9%))の結果を多角的に分析した。その結果、①児童発達支援センターの経営主体は、近年の傾向としてNPO法人や株式会社等の参画が微増傾向にあること。②利用する児童の障害種は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもの割合が高い傾向にあること。③就学後のフォローアップに関しては、6割弱のセンターが「必要に応じてフォローアップしている」こと。④今後の児童発達支援センターの役割では、「地域のキーステーションとしての役割」「職員体制の充実」「医師等の専門職の配置」「障害種別の一元化の必要性」などの項目において比較的高い回答率が示されたこと。⑤児童発達支援センターの今後の在り方に関しては、地域における児童発達支援センター同士の連携の強化や、行政機関と密に連携を取りながら、地域の児童発達支援を充実させていく必要性のあることなどが示唆された。 また、児童発達支援センターの関係者(16機関)に対するインタビュー調査では、乳幼児期の障害のある子どもを育てる保護者、特に母親の気持ちに寄り添いながら、家族全体を支えていくという「ソーシャルワーク的な対応」が重要であることなどが示唆された。同様に、行政が主導を取りながら、広域圏にある児童発達支援センターと協働して、情報交換を含めた有機的なネットワークを構築していくことが大切と考えられた。 さらに、研究代表者が関係する児童発達支援センターにおいて、保護者や関係者(園長、担任の保育士等)の了解が得られた3名の事例対象児に対する間接的な運動支援を実施した。発達評価にはMEPA-RとMEPAⅡ-Rを用いて指導前と指導後の変化について考察した。その結果、3名の事例対象児の全体的な発達の傾向が確認でき、特に年長のASD児の発達が顕著に示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、前年度に実施した児童発達支援センターに対するアンケート調査(154機関からの回答(回収率:30.9%))の分析を多角的に行った。その調査の中で、二次的な聞き取り調査への協力の申し出が得られた全国の児童発達支援センター(57機関)の中から、地域やセンターの種別などを考慮し、計16機関に対するインタビュー調査(調査期間:2020年8月~2021年1月)を実施した。分析方法は、佐藤(2008)の「質的データ分析法」を用いて、16名の協力者の語りを複数のカテゴリーに集約し、各カテゴリーに関する検討を行った。協力者の主な語りからは、乳幼児期の障害のある子どもを育てる保護者の気持ちに寄り添った「ソーシャルワーク的な対応」が重要であることや、行政が主導を取りながら、広域圏にある児童発達支援センターと情報交換を含めた有機的なネットワークを構築していくことの大切さなどが示唆された。 また、当初から予定していた「障害乳幼児の発達促進に関する事例研究」に関しては、研究代表者が関係する児童発達支援センターと連携・協働し、保護者の了解が得られた事例対象児3名に対して、障害児の発達促進の一つの手法として位置づく「ムーブメント教育・療法」を用いた間接的な運動支援を展開した。評価にはMEPA-R及びMEPAⅡ-Rを用いて、指導前・後の発達変化について臨床的に考察した。結果として、3名の事例対象児の全体的な発達の傾向が確認された。特に年長のASD児の発達が顕著に示された。 年度末に予定していた海外調査(フランス)に関しては、新型コロナウイルスの関係などもあり、次年度以降に延期する形とした。海外調査に関しては、日本と異なる文化圏における障害乳幼児の支援に関する有用な資料を得られる貴重な機会ではあるが、今後の海外情勢などを十分踏まえながら、安全面に配慮して、適切な時期に実施していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、児童発達支援センターと同様に、地域における障害のある子ども(学齢期の児童及び成人期の大人も含む)に対する相談支援を実施している「発達障害者支援センター」(全国に90機関程度)に対するアンケート調査を実施していく予定である。また、障害のある子どもたちのフォローアップに関しては、研究代表者が関係する埼玉県内の保育・教育団体と連携・協働し、保護者及び関係者(園長・保育士等)の了承が得られた事例対象児(明らかな障害が認められる児童)を対象に、小学校等への移行支援に関する事例検討を追跡的に行い、障害乳幼児の包括的支援体制モデル構築のための一助としていきたい。なお、前年度から継続的に実施している児童発達支援センターにおける事例対象児(3名)のフォローアップ(1名は小学校特別支援学級に入学、他2名は引き続き園に在園予定)についても、その後の対象児の園や学校での経過などについて、センターの関係者と協働しながら、追跡的に検討していきたい。 また、前年度、実施できなかった国内外の先進地域の「実地(現地)調査」に関しては、新型コロナ肺炎の情勢次第ではあるが、感染が終息した際には、国内及び海外の実地調査を検討していきたい。海外の視察先の候補としては、研究分担者が旧来から関わっているフランス国内の保健センターや保育所、小学校、児童の発達に関係する機関などを視察し、欧州における個別家族支援計画(Individualized Family Service Plan:IFSP)の作成や支援の現状について調査していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度内に予定していた海外調査及び国内調査に関しては、新型コロナ肺炎の影響で実施できなかったため、その分、計上していた旅費(国内及び海外調査用:3名分)に残額が生じている。今後の日本におけるコロナ禍の状況や、海外の渡航先の安全面等が最優先されるが、次年度の計画の中で、今後の国内外の情勢を十分鑑みながら、適切な時期に実施を検討していきたい。なお、現時点での海外の渡航先としては、研究分担者と関わりの深いフランスを始め、欧州の複数の福祉先進国(イギリス、ノルウェー王国等)の視察を予定している。
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