研究課題/領域番号 |
19K02627
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研究機関 | 相模女子大学 |
研究代表者 |
宇田川 久美子 相模女子大学, 学芸学部, 教授 (90513177)
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研究分担者 |
林 浩子 国立音楽大学, 音楽学部, 教授 (00587347)
佐伯 胖 田園調布学園大学, 大学院人間学研究科, 教授 (60084448) [辞退]
岩田 恵子 玉川大学, 教育学部, 教授 (80287812)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | よさの未定義性 / 訴えの相互交渉 / 能力観の捉え直し |
研究実績の概要 |
2023年度は、2022年度までに積み上げてきた分析結果を踏まえて、“よさ”の未定義性のなかで「能力」の捉え直しを行った。保育において、子どもの「能力」を高めることが保育者の役割であるということが暗黙の了解となっている。そのため、保育者は「できる・できない」に焦点化した「能力」観に縛られてしまい、子どもの世界(遊びにおけるおもしろさの探求)が見えなくなってしまう。そこで、いままで収集したデータを分析し、「能力の向上」だけでは測りきれない子どもの発達/学びについて明らかにした。 その結果、以下の3点が明らかとなった。①保育者は、子どもの発達、さらには保育者自らの保育にかかわる行為の原因が、「能力」というモノであると、あたかも実体論的に備わっているかのように捉えてしまうことで、あらかじめ定義された“よさ”を通してのみ子どもを見ることとなり、周囲の人、モノ、コトとのかかわりのなかであらわれ出てくる子どもの真の姿が見過ごされている。②大人は子どもができるようになることに意味を見出し、それに縛られる一方、子どもは、子どもの内側から起こる根源的能動性により、“よさ”を自ら考え、見出した結果としてできるようになっている。これは決して「能力」を身に着けたわけではなく、「能力」というトラウマから抜け出ていることを意味する。③一人ひとりの子どもたちのどのような「思い」も互いに聴き合い、“よかれ”という願いや訴えのもと、その子どもの「思い」を最大限に生かそうと共に探求した結果、子どもたちは自ら“よさ”に向かって成長していくことから、「能力の向上」は成長のゴールでも保育の目的でもない。 今後は「できる・できない」という評価とは異なる「評価」について、“よさ”の未定義性のなかで追究する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルス感染症の影響により中断していた保育現場の視察で収集したデータを分析し、これまで積み重ねてきた分析結果と合わせて整理、分析したところ、保育における遊びのおもしろさの生成、持続、発展を阻んでいる能力観が背後に潜んでいることが明らかとなり、新たな分析の視点を得ることができた。 具体的には、保育の目的を「能力の向上」とすることで、「できる・できない」を基準として子どもを評価することとなり、それが“よさ”の未定義性の足かせとなって、おもしろさの生成、持続、発展に重大な影響を及ぼしている。これにより、脱目標化による能力観からの脱却が重要となる。
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今後の研究の推進方策 |
遊びにおけるおもしろさの意義を明確にするため、“よさ”の未定義性のなかで「できる・できない」という評価とは異なる「評価」について究明する。従来の評価とは異なる「評価」の究明に必要となるデータを海外も含めた教育現場の視察、及び、保育現場の参与観察を実施することで収集する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の拡大が影響し、保育現場の視察、及び海外視察について、実施を予定していた2020、2021、2022年度に実施することが不可能となり、データの収集ができなかった。この3年間分の研究の進行が後ろにずれてきているため。 分析に必要となるデータ収集のため、保育、教育現場への視察、及び、海外視察の実施に使用する予定である。
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