5年次の研究では、本研究で取り上げてきた兵庫師範学校女子部附属幼稚園・徳島大学学芸学部附属幼稚園・お茶の水女子大学附属幼稚園における戦後保育カリキュラムの具体相について比較検討した。 その結果、3つの幼稚園に通底していたことは次の2点である。 第1に、終戦後から昭和20年代半ばに至るまでの戦後初期の幼稚園において、各幼稚園の戦前のカリキュラム・保育案を礎に、子どもの興味や要求から出発点する保育内容を構築していこうとする改革がなされていたことである。この時期のカリキュラムにみる保育内容は主として、(1)近隣の社会環境・自然環境における観察・体験とその模倣遊び、(2)季節的な遊びとその中での探究活動、(3)時機を捉えた生活活動や年中行事、(4)発達段階を考慮した集団遊びや協同遊び、(5)以上の過程における表現活動(唱歌・遊戯・リズム)や談話・話し合い等の活動から構成されたものであり、わが国の伝統的な保育内容構成方法が採られていた。保育者達は、こうした戦前からわが国の保育に根差してきた保育内容構成の考え方を基礎に、子どもの興味を重んじた「保育要領」(1948)の趣旨を反映させ、戦後保育へと向かう幼稚園カリキュラムを作成していこうとしたのであった。 第2に、昭和20年代半ばから30年代初頭にかけての幼稚園において、カリキュラムづくりの基礎に発達研究を据え、眼の前にいる子どもの発達やものの見方・考え方に即した保育内容と指導のあり方が探究されていったことである。「幼稚園教育要領」(1956)の刊行へと向かう過程で論議された「望ましい経験」は、保育者自らの観察によって子どもの姿を記録するという方法を採った発達研究を基礎に解明されていった。
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