本研究は、言語発達の初期段階に見られる乳児期の音韻弁別能力の個人差を生む要因の検討と、幼児期の言語運用・コミュニケーション能力との関係性を解明することを目的としている。特に本研究では、乳児期から幼児期へと月齢縦断的に検討することで、多次元から乳幼児期の言語獲得・発達のメカニズムの解明に迫る。そのために本年度は乳児期の音韻知覚処理における個人差要因の詳細な解析と語彙発達質問紙調査と関連する家庭環境の相関解析を行った。その結果これまでに明らかにした、語彙能力とSES(Socio Economic Status)との無相関に加え、我が国の20カ月児の語彙数を予測する社会的要因として、母親の就労状況(就労中、育休中、専業主婦)が関係していることが明らかとなった。興味深いことにこれは、乳児が保育園に通っているかどうかという要因とは独立していることから、入力の多様性から説明できることとは考えにくく、親の就労形態の差異における家庭環境が関係していると推測される。しかしながら、各国で報告されているような親の学歴や収入、家族構成との相関関係が見られなかったことから、我が国に特有の家庭環境が乳幼児期の言語発達に与える要因が潜在している可能性が示唆された。また、8ヶ月乳児期の日本語長短母音の弁別能力とその後の語彙数との関係については、明確な相関関係は見いだせなかった。前述の母親の就労状況が語彙発達に相関しているにもかかわらず、就労状況と弁別能力の間には有意な相関関係が見られなかったことから、20カ月児の語彙発達に与える要因は発達早期の音韻弁別能力の個人差より、家庭・社会的な環境の影響が大きいことが示唆された。
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