研究課題/領域番号 |
19K02648
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研究機関 | 聖徳大学 |
研究代表者 |
椨 瑞希子 聖徳大学, 教職研究科, 教授 (30269360)
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研究分担者 |
小玉 亮子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (50221958)
藪中 征代 聖徳大学, 教職研究科, 教授 (50369401)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 家庭的保育 / チャイルドマインダー / 評価改革 / 保育の質 / 多言語 / 日英比較 / 子ども理解 |
研究実績の概要 |
本研究は、多文化時代を迎えた日本における家庭的保育及び小規模保育事業の新たな役割を探り、そのための保育職の資質向上プログラムの開発・試行をめざす。具体的には、①日本に先行して多文化化した英独の経験と家族支援政策の分析、②多文化家庭の子育てを支える地域づくりに向けた「研修プログラム」の作成・試行を行う。 令和2年度の実績は、学会発表1件、論文4本と編著1冊である。学会口頭発表「日英家庭的保育事業者の保育の『質』に関する意識」では、令和元年度に引き続き、東京都調査(2017年)の結果と「全英子ども局」(NCB)調査の結果を比較した。イギリスの家庭的保育者(チャイルドマインダー)の質に対する考えがほぼ一様であるのに対し、日本では幅があることを示した。 紀要論文「『家庭的保育事業』従事者の保育課題意識」では、東京都調査で得た自由記述のデータを分析し、子ども・子育て支援新制度への移行期における従事者の動揺を明らかにした。家庭的良さの喪失や業務負担の増加に対する懸念、あるいは外国繋がり児への対応の苦慮がみてとれた。 「イギリスの質評価とそれを超える物語り」と「アイザックスと現代イギリスの幼児教育評価改革」は、評価をめぐる動向を扱っている。前者でその問題点を指摘し、後者では2020年秋に始まった評価改革の先導的施行(2021年秋に全面実施)を紹介した。従来の評価は、全ての保育事業者に対して、詳細な保育記録をエビデンスとして求めてきた。改革施行後は、評価は保育者の専門的判断に委ねられる。この改革がチャイルドマインダーによる多文化・多言語環境下の子どもの育ちと家族支援に及ぼす影響の追跡は、今後の課題である。 「絵本を介した幼児の関わり-子ども園の絵本コーナーを通して-」及び『子どもの理解と援助-子どもの育ちと学びの理解と保育実践-』は、日本の保育実践における言葉の育みの重要性に触れている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和2年度は①文献調査、②質問紙調査の予備調査終了、③学会発表と論文執筆、④年度末のロンドン実地調査を予定した。①は継続して行っており、今日までの社会変動と保育政策動向の把握に努めている。②については、調査票の作成にとどまっている。③はある程度の成果を上げている。④のロンドン調査は、令和元年度に調査先等を確定し渡航準備を完了していたにもかかわらず、新型コロナウィルス感染症の拡大により、直前になって中止せざるを得なかった活動内容である。残念ながら令和2年度も、実地調査は実行不能な状況であり、実地調査は進んでいない。 海外研究協力者との合同調査ならびに公開講演会は、毎年1名の招聘費用を計上していたが、令和元年度は予定者の事情で実現せず、令和2年度についてはコロナ禍下での招聘困難が予想されていたことから、計画していない。国際的な視野にたった研究推進に係る日独英における実地調査や、英独からの研究協力者の招聘が一度も実施できていないことは、研究計画上、著しい遅れといわざるをえない。家庭的保育者・小規模保育従事者を対象としたワークショップについても、同様である。 以上のように、文献調査、および学会発表と論文等の執筆を除くと、予定していた研究活動そのものが行えず、成果をあげることもできていない。そのため、本研究計画は遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度の前半は、新型コロナウィルス感染症の終息は期待できない。しかしワクチン接種が開始され進展をみていることから、海外や国内での実地調査やワークショップ等が行える見通しが持てるようになった。 外国への訪問調査については、令和元年度に実施できなかった活動を、令和3年度の2-3月に実施する。調査先については2年の空白が生じていることから、改めて交渉する。海外からの招聘についても、英独のアカデミック・イヤー2021年度(9月-翌年8月)計画に組み込む方向で協議を進めるが、実施は令和4年度にずれ込む恐れがある。 国内におけるワークショップは、本年度に先送りしていたが、ワクチン接種がゆき渡るまでは、具体的な実施計画を立てづらい。他方で、日本社会のICT化は予想通り著しく進展した。いまや小規模保育事業者や家庭的保育事業者の間でも、Zoomなどによるテレビ会合が日常的に行われるようになっている。オンラインによるワークショップの実施や、言葉育て支援プログラムの提供などが行える環境が整ってきたといえる。本研究の代表者・分担者もそうしたリモート会合を主催する経験を積んでいる。そこで、10月、11月に多文化・多言語環境に育つ子どもとその家族を支援する上で役立つテーマを立てて、リモート・ワークショップを実施する。 質問紙調査は、新型コロナウィルス感染症を巡る状況の変化に、さほど左右されずに進めることができる作業である。しかし令和2年度は、勤務校における突然の授業リモート化で、教材準備や学生指導に多くの時間がとられ、実施できなかった。令和3年度の6月中に実施し、その結果を紀要等の投稿論文にまとめることを目指す。 令和元年度よりもさらに遅れの度合いが大きくなり、挽回の見通しがたたないことから、研究内容の一部変更ならびに研究期間の1年延長を申請する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度の経費として計上した金額の大半は、海外研究者を日本に招いて行う講演会等の研究交流と、日本から海外に渡航して行う実地調査であった。しかしながら、研究の進捗状況について説明をした通り、令和2年度においても、日本への招聘ならびに日本からの渡航実地調査は実現できなかった。そのため、直接経費のほとんどが未使用額となった。 令和3年度においては、海外と接続して行う公開シンポジウムを1回開催し、Zoom設定費用、及び同時通訳の費用に充てる。また、日本における家庭的保育者・小規模保育事業者を対象としたZoomによるワークショップを複数回計画し、その実施費用とする。海外研究協力者の招聘は、当人のワクチン接種状況や、所属機関等が課している制約に左右されることから計画しづらい。しかし、研究代表者・分担者の海外実地調査には、実施の可能性がある。令和2年度までの旅費未使用額は、日本からの渡航計画に必要とされる旅費として用いる。また、全体に計画が遅れていることから1年間の研究期間延長を検討しており、未使用額の一部を令和4年度に持ち越し、招聘・渡航による合同調査と成果発表を実現する予定である。
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