研究課題/領域番号 |
19K02676
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
池田 敏和 横浜国立大学, 教育学部, 教授 (70212777)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 数学化 / 数学的知識 |
研究実績の概要 |
数学的知識の獲得について,小中高の長期的な数学的活動の流れに焦点を当てたとき,二つの数学化が互いに影響を与えながら,数学的知識が構築されることになる。この考えは,トレファー(1987),ディランジェ(1996)による水平方向の数学化,垂直方向の数学化の考えを基にしたものである。そして,この二つの数学化は,大きく下記のように流れを経て数学的知識の構築に繋がっていくという仮説を立てた。(1)水平方向の数学化:現実の世界の中だけで思考することの面倒さに気づき,雑多なことを捨てて視覚的・操作的に考えたり説明したりするための別の空間をつくろうとする行為,(2)垂直方向の数学化:新たな世界における記号的表現だけでは具体が見えにくく,その都度,具体に関連づけて考えていく面倒さを体験する中で,具体に戻すことなく,記号的な世界だけで操作できるようなシステムを構築する行為,(3)水平方向の数学化:記号的な世界だけで操作できるシステムが徐々に構築される中で,そのシステムで操作できる現実場面の事象を拡大していく行為,(4)垂直方向の数学化:記号的な世界だけで操作できるシステムが徐々に構築される中で,構築された複数のシステムの一長一短を考察したり,複数のシステムを統合的に捉えられるような新たなシステムを構築したりする行為 (1)の行為が(2)を引き出し,(1)(2)の行為が(3)(4)の行為を引き出すことになる。そして,(3)の行為が累積的な数学的知識の獲得に,(4)の後者の行為が革命的な知識獲得に対応すると解釈できる。 今後は,小中高の数学カリキュラム系列において,学習内容がどのように上記(1)(2)(3)(4)の大局的な数学的活動の流れに対応づけられるのか,さらに,二つの数学化がどのように相互作用することで数学的知識が獲得されるのかを教材開発を通して明らかにしていく必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,大局的な数学的活動の流れを大きく4つの行為によって捉えることができた。これにより,数学的知識の獲得が,どのような活動を行っている際になされる行為であるのかが特定しやすくなると共に,小中高といった大局的な視点から数学的知識の獲得を検討していくことが可能になる。ただし,この4つの行為は,常に順次的になされるものではなく,学習内容,児童・生徒の発達段階に応じて,4つの行為が絡み合いながらなされる可能性が高い。それゆえ,具体例と照らし合わせながら,事例的な研究を積み重ねていく必要がある。本年度は,この事例的な研究の積み重ねが十分に行うことができなかった。今後の継続研究として,さらに深めていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
大局的な数学的活動の流れを大きく4つの行為によって捉えたとき,小中高の算数・数学の学習内容が,4つの行為にどのように関連づけられるのかを具体的に明確化していく必要がある。また,4つの行為を通して,児童・生徒は,どのような数学的な見方・考え方を働かすのかについても事例的に考察する必要がある。このような事例研究を通して,4つの行為と数学的な見方・考え方の成長を関連づけながら,大局的な数学的知識の獲得過程を捉えていく必要がある。
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