本研究は、子どもの溺水事故防止という大きな目標に向けて、小学校体育水泳授業における自己保全能力獲得のためのプログラムを開発することを目指した。新学習指導要領に新設された「安全確保につながる運動」を組み入れた学習の有効性を検討し、より良い水泳学習プログラムの作成を目的とした。 主な方法と得られた成果は以下の通りである。①安全確保につながる運動(背浮きや浮き沈み)の学習内容について。呼吸がうまく調整できたら「続けて長く浮いていられる」ようになることで、苦手なものにとって認識しずらい呼吸について、自覚的に調整することにつながる運動である可能性が示唆された。②安全確保につながる運動の学習をベースに、泳法指導を進める際に、「らくに」という主観的な感覚を手がかりに学習を進めることで、結果的に「ゆったりとした泳ぎ」の獲得に繋がる可能性が示唆された。③水泳学習におけるつまずきの原因として、「呼吸に関するもの」がとても大きいことを確認し、その改善のためのプログラムとして、「安全確保につながる運動(背浮きと浮き沈み)」が有効に働くことを明らかにした。 今年度は、これまで蓄積された上記の知見について、コロナ禍で進められなかった世界的な動向との関係を確認する上で、世界溺水予防学会(WCDP2023)へ参加し、参加者と情報交換を行った。特に、背浮きや浮き沈みの学習が「呼吸コントロール」に繋がる有効な内容であり、溺水予防の基本的な資質の獲得に繋がる一つの要素となりうることが確認できた。
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