2022年度は、これまでの研究を総括し、研究発表と学術論文を通して概略以下の点を検証もしくは明らかにし、成果として公表した。 アジア太平洋戦争後のわが国の「市民革命」論は、学界の枠を越えて人口に膾炙し、学習指導要領にも反映されるようになった。そしてこの用語・概念は、現行の学習指導要領や中学校社会科、高等学校歴史総合の教科書にも記述されている。ところが他方で、その母胎ともいえるイギリス革命史やフランス革命史における修正主義の台頭によって両革命の解釈は大きく変わり、「市民革命」論の前提になっていたブルジョワ革命論は否定されるようになった。戦後の学習指導要領、現行の中学校社会科歴史分野および高等学校歴史総合の教科書、英仏革命史の動向に関する文献調査によって、これら諸点を確認できた点が研究成果の一つである。 つぎに、イギリスとフランスの前期中等教育のカリキュラムと教科書の記述を検討した。イギリスについては3社、フランスについては4社の教科書を参照した。前者における「内乱the Civil War」、後者における「フランス革命」は重要単元としてそれぞれ相当の分量が充てられ、興味深い視点が多々見られる一方で、「ブルジョワ革命」の用語や「市民革命」に類似した概念は見いだせなかった。これが成果の二点目である。 これらの点を踏まえると、「市民革命」概念を捨て去るのは早計であるとしても、無批判に使いつづけることも問題であり、歴史学において適確に定義しなおし、新たな共通理解を構築することが望ましいとの結論にいたった。そして見なおされる場合、グローバルヒストリーの観点とともに、ジェンダーや奴隷制の問題をどう組み込むかが重要ではないかと提言した。
|