本研究は、日本の楷書筆順において行書系筆順が定着した過程について、江戸期に広く使用された寺子屋教材「往来物」の運筆順序の分析を通して明らかにしようとするものである。研究期間内には、「往来物」から40字種を抽出し運筆順序の分析を通して江戸期の行書系筆順の実態を明らかにするとともに、定着の過程を通史的に解釈するところまでを行なった。結果、現在の楷書筆順すべてが行書系筆順と整合性があるわけではなく、字種によって状況が異なることがわかった。しかし、往来物と高い割合で整合する「王」のように今日の行書系筆順として引き継がれている場合があるのも事実であり、明治以降の楷書筆順の変遷につながる流れは確認できた。
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