研究課題/領域番号 |
19K02694
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研究機関 | 奈良学園大学 |
研究代表者 |
松井 典夫 奈良学園大学, 人間教育学部, 教授 (10736812)
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研究分担者 |
岡村 季光 奈良学園大学, 人間教育学部, 准教授 (00750770)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 熊本地震 / 阪神・淡路大震災 / 連れ去り事件 / 学校安全 / 未体験教員 / 道徳観 / 海外との比較研究 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、児童生徒や学校の安全において「有効性」を持ち、学校現場の教員が実践する上で「持続性」をもつ、そして時流によって内容が変容するのではなく、「包括的な」学校安全プログラムを開発することを目的としている。 今年度、着眼して研究を進めてきたのは、学校安全プログラムを実践するのは教師であり、そこには過去の災害や事件と、その教師との関わり、関係性が要素として存在するという観点である。たとえば阪神・淡路大震災(1995年1月)が発生して25年が経つ(2020年6月現在)。学校教育においてはこれまで、震災の教訓やそれに基づいた防災教育は、兵庫県を中心として継続的に進められてきた。しかしそこには、「語り継ぐ」あるいは実践する教員は「未体験者」であるという、年月の経過に伴う課題が生まれている。そこで今年度の本研究では、被災体験のない、あるいは学校教育現場に関連した事件について、「事件を知らない」教員が「語り継ぎ」の責務を負った時、そのジレンマについて明らかにすることを目的とする。また、教員がそのジレンマを乗り越えて行う「語り継ぎ」は、その対象(児童や他の教員)にどのような有効性を持つのかを明らかにすることを目的として進めてきた。そこで、事件や災害を経験した学校の教員にインタビューを実施し、「環状島」(宮地、2007)をモデルとして考察した。そこでは、未体験教員の「語りつぎ」のジレンマが明確になった。 今年度のもう一つの研究の視点は、海外における教育学研究において、特に日本のいじめ問題をはじめとした道徳的課題について比較検討することを目的として、調査を実施してきた。そこで、海外研究協力校で実地調査を行った。いじめの形態の違いや道徳観の違い等が明確になる中、国家としての性質の相違が影響する可能性も示唆された。また、学校や子どもの安全に対する対策や考え方の新たな知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度においては、学校安全を担う教師の役割に視点をおき、「未体験教員による語りつぎ」をテーマとして研究を進めた。もう一つの視点として、学校安全の海外の知見を得るため、海外の協力校における実地調査を行い、日本との比較研究を行った。 「教員の語りつぎ」の研究については、熊本地震に関連して熊本県益城町立広安西小学校と、山都町を訪問し、教員、元校長にインタビューを実施した。また、阪神・淡路大震災に関連して、芦屋市立小学校、中学校の教員にインタビューを実施した。事件に関連した面では、奈良市小1殺害事件に関連して、奈良市立小学校の教員にインタビューを実施した。これらの調査結果から、学会発表(日本安全教育学会山形大会)を行い、さらに研究を継続し、発展させる示唆を得ることができた。 また、海外調査については、台湾では「台湾におけるマイノリティー対応と、ヘルスプロモーションに関する調査」をテーマに実施した台湾が原住民族文化をひとつの重要なアイデンティティーとして認識していることに着目し、原住民文化が学校でどのように取り扱われ、それは台湾の人々、子どもたちの道徳性の形成にどのように関与しているのかを調査することをひとつの目的とした。本研究においては、「有効性」と「持続性」を持つ包括的な学校安全プログラムにおいて、「道徳教育」は重要な要素を持つ。海外諸国の道徳教育を日本と比較することは、重要な調査対象となっている。そこから、本研究の課題である「包括的な学校安全」のひとつとして挙げている道徳教育(いじめ問題、自殺防止、犯罪防止、生命尊重)において、有効な示唆が得られると考え、カンボジア、プノンペンの研究協力校において実地調査を行った。またここでは、申請者(松井)による学校安全(いじめ)の講演を実施し、意見交流を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
申請者(松井)はこれまで、プノンペンを訪問する中で、開発途上国における学校安全の実態について調査を継続してきた。開発途上国における交通網の未整備や、教育環境の未開発な部分が、学校や子供の安全においてどのような影響を及ぼすのかについて、フィールドワークを中心にして調査をしてきた。その中で、当初の仮説(未開発な部分が多い開発途上国では、学校や子供の安全は守られにくいのではないか)とは反対の調査結果が示唆されてきた。そこでは、親による子供の「保護」の意識は、日本に比べて強いように感じられてきた。その原因を探る中で、人のつながりや強固な家族制、老人への敬いの様子がカンボジアの学生、人々から見られるようになった。そして、日本における学校、子供の安全にとって重要な課題であるいじめ問題について、両国で比較調査することの意義を見出した。これまでの視察、調査で、カンボジアをその対象としたとき、防犯や交通安全に関連した視察、調査よりも、家族性や道徳性と、それに関連するいじめ問題や自殺予防の調査において、当国で有効な調査が実施できることが示唆された。引き続き研究調査を継続し、有効性、持続性と「包括的な」学校安全の構築へと結び付けていきたい。 また、今年度についてはCOVID-19による感染拡大、それによる学校の休校等、本研究課題の必要性がさらに重要であることが示唆される事態が世界を席巻した。本研究としては、台湾におけるヘルスプロモーションの取り組み事例について、さらに継続的に研究を進めるため、実地調査を行いたい。とくにCOVID-19に関連した実地調査を行い、学校における感染症予防対策の知見を得られる様、調査を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費について、当初予定していたプノンペンへの調査について、1回目の調査では不十分だったため、調査を1回増加し、旅費が当初より大きくなった。 物品については不急のものについては後に回し、円滑で効果的な研究推進のために調査を優先している。そのため、前倒し請求を行なったが、必要経費を低く抑えることができたため、次年度使用額が生じている。 今後については、COVID-19の影響も大きく、調査の時期が不明となっているが、とくに台湾、プノンペンにおいてCOVID-19への対応、学校安全について調査を進める予定である。 このことは、本研究の包括的な学校安全において、中でも今後も起こりうる感染症対策の学校安全プログラムの構築において必要かつ急務であると考える。したがって、次年度(2020年度)においても旅費に傾斜をかけた研究推進を行う予定である。
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