研究課題/領域番号 |
19K02708
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
竹下 俊治 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 教授 (90236456)
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研究分担者 |
古賀 信吉 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 教授 (30240873)
山崎 博史 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 教授 (70294494)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 探究活動 / 教材開発 / 学習プログラム / 学習素材 / 分野横断 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,探究することによって生じる新たな課題をさらに探求していくといった探究の連鎖を通じて学びを深め,発展させる仕組みとして,「探究のネットワーク」を構築するとともに,一連の探究活動を基盤とした理科の学習の高度化を図る学習プログラムを開発することである。2022年度においては,当初の研究計画うち,Step 1「探究素材の探査と探究活動の多様化」,Step 2「探究活動のネットワーク化」,Step 3「学習プログラムの開発」,Step 4「学習プログラムの実践的検証」について検討を行い,それらの成果の一部を各種学会や学術雑誌等で公表した(Step 5「研究成果の公開」)。具体的には次の通りである。 生命関連領域では,ミツバチの訪花の季節変化,単細胞性藻類の生活環,河川の珪藻類相の遷移,微細藻類の分類学的手法,地衣類の成長など,物質関連領域では,化学反応触媒,コンクリートの硬化,硫酸の酸解離,金属炭酸塩熱分解反応,化学蓄熱材など,地球関連領域では,学校における防災教育,地層の解析による堆積環境の推定などに着目し,それぞれを題材とした探究活動について検討した。また,個々の探究活動から派生する新たな課題について整理することができた。 一連の探究的な活動をモジュール化するにあたっていくつかの試行的実践を行った。その結果,探究的な活動の教材化における改善点を明確化することができた。特に,生命関連領域で実施した実践では,探究の素材に関連した知識や経験の種類と量が,探究の過程から派生する新たな課題だけではなく,元の探究の進行や展開にも影響するなど,探究に取り組む側の発想力や実行力に影響を及ぼす要因について考慮する必要性についても重要な示唆を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度においては,当初の計画の通り,Step 1「探究素材の探査と探究活動の多様化」,Step2「探究活動のネットワーク化」,Step 3「学習プログラムの開発」,Step 4「学習プログラムの実践的検証」,Step 5「研究成果の公開」を行った。 「探究素材の探査と探究活動の多様化」としては,新たな探究の素材の探査を行い,ネットワーク形成の基盤となる個々の探究的な活動の多様化を図ることができた。また,それら探究活動から派生的に生じた課題を基にした新たな探究を踏まえ,探究活動のモジュールを蓄積することができた。「探究活動のネットワーク化」としては,それぞれの探究活動のモジュール化から,2021年度におてい抽出された共通項をさらに充実させ,「多様性の解析」「環境の解析」「観察の視点の解析」「物質の変化の解析」など,特に探究のアプローチ面(方法論や見方・考え方)において個々の探究活動間の連動性について検討し,ネットワークの構築を試みることができた。「学習プログラムの開発」では,このような探究活動を連動させた学習を念頭にしたいくつかのプログラムを考案することができた。「学習プログラムの実践的検証」では,学部1~3年生ならびに大学院生を対象として試行的な実践を合計82時間(生命関連分野:22時間,物質関連分野:51時間,地球関連分野:9時間)行うことができた。実践について省察し,その結果明らかになった課題については改善策を講じることで次の実践に備えることができた。 2022年度の研究および実践によって得られた成果の一部は,論文13編(うち査読付き10編),学会等発表21件(うち国際学会3件)によって公表した。 以上の成果により,本研究課題は概ね計画通りに進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は,探究することを通して新たに派生する課題についてさらに探求するという探究の連鎖をモジュールとし,それらを連動させた「探究のネットワーク」を構築し,そのネットワークを活用した学習プログラムを開発することを目的としている。この学習プログラムは,特定の分野に留まらず,複数の分野間を横断的に扱うことで多角的な視点や柔軟な思考力を身に付け,理科の学びを深め,発展させて学習の高度化を図ることができるようなものを想定している。これまでの研究の成果を踏まえつつ,今後もさらに探究素材の探査や探究活動の多様化を進めるが,2023年度は研究の最終年度であることから,探究のネットワーク化と開発した学習プログラムの実践的検証によって実践例を蓄積し,学習プログラムの充実を図るとともに,研究成果の公表を積極的に行う。 探究のネットワーク化については,既に探究活動のモジュールが蓄積されており,それらを学習プログラムとして効果的になるように組み合わせることで,新たな探究活動のモジュールが形成されることが期待できる。また,ここで構築される探究のネットワークは非常に複雑なため,汎用性に向けた検討も行う。 学習プログラムの開発にあたっては,きっかけとなる活動を起点とした探究の広がりに着目したものとする。場合によっては一つの探究的な活動における個々のステップ間の思考の展開も一つの探究であると捉えることとする。このことにより,学習プログラムや探究的な活動の形骸化を防ぐことができると考える。 実践的な検証では,学習プログラムの省察に加え,探究の素材に関連した知識や経験が,学習者の発想力や実行力に及ぼす影響についても調査し,課題発見能力の育成へ研究を発展させる示唆を得たい。 研究成果の公表では,本研究で行った探究活動や探究のネットワーク,それらに基づく学習プログラムについて,各種学術論文や学会発表等によって公開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響による様々な制限が緩和され,研究も順調に進み,旅費等の執行が改善された。一方,社会的な物価の上昇の影響により,経費の執行計画を見直し,研究への影響を最小限に留めることを念頭に物品購入時には経費の節約に努め,代替品の購入を進めたほか,一部の教材開発用の部材の購入を控えたことで,結果的に次年度使用額が生じた。 次年度は研究期間の最終年度に該当するため,今年度購入予定であった物品を購入して不足した部材を補填するほか,当初の予定と整合性を保ちつつ,引き続き必要となる物品の購入や,特に成果報告のための旅費および謝金の執行について適切かつ柔軟に対応し,研究を充実させよう努める予定である。
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