研究実績の概要 |
演奏指導場面の調査では,大学音楽科教員2名(ピアノ,声楽)によるレッスンをビデオ撮影し、レッスン中の教員の思考プロセスや指導による学生の演奏の変容について、自身のレッスンのVTRを視聴させながらインタビューを行った。また、レッスンを受けた各1名に対しても,教師の指示に応じてどのように音楽表現を修正したかについてインタビューを行った。VTRとインタビュー記録のスクリプトを内容に基づいて切片化し、修正型グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)の手法を用いてボトムアップで分類し,概念図を作成した。分析の結果,教員と学生は,からだメタ認知(諏訪, 2015)に基づく身体動作や自己受容感覚の言語化と,「有効性を希求する際の振る舞いにおいて等しい身体」の共有を前提として,他者の「身体的リアリティ」の変化を理解する「相互身体的判断」(倉島, 2007)を通して協働で音楽表現を生成していることが明らかとなった。この結果に基づき,音楽科教員養成において教師を目指す学生たちに対し,レッスン等を通じて生じる自身の行為と知覚の変化を継続的に言語化させることを通して,からだメタ認知能力を高めていく必要があることを提言した。 また音楽授業における調査では,宮崎大学附属中学校第3学年を対象に行われた歌唱表現の工夫を題材とする授業を観察するとともに,授業内で行われたグループ学習場面の生徒の対話を録音した。発話内容について表現の工夫とその根拠を視点にしてオープンコーディングを行い,類似するコードを集約することによりカテゴリー生成を行った。その結果,生徒の関心は歌詞の言語的な意味や旋律の上がり下がりなどの自分の外側に措定されている事実に向けられており,そこから合理的に導かれる「正しい」歌い方に自分が従えているかどうかについて考えることのみが主題化されていることが明らかとなった。
|