本研究全体の目的は,研究代表者がこれまでの研究を通じて理論的かつ実証的に策定した「数学的意味と数学的表現に関する相互発達モデル」(以下,相互発達モデル)に基づいて,生徒どうしの社会的相互作用の充実・促進という視座から,中等教育における数学科授業に関する構成原理,授業モデルを提案することである。本研究の具体的な研究課題は,次の3点である。 (目的1)相互発達モデルに基づいて,中学校における統計教材に関する授業モデルを策定し,研究授業を通じて,その有効性を検証すること。 (目的2)相互発達モデルに基づいて,高等学校における三角比,三角関数の教材に関する授業モデルを策定し,研究授業を通じて,その有効性を検証すること。 (目的3)目的1および目的2の実証的研究の結果をもとに,中等教育における相互発達モデルに基づく数学科授業に関する実践的原理を理論化すること。 以上のような3つの研究目的に対して,1年次の研究では,教科書分析や先行研究の考察といった文献解釈的手法によって,相互発達モデルの視座から,中学校第2学年の教材である「箱ひげ図」に関する教授・学習過程のポイントを検討した。2年次の研究では,1年次の研究と同様の手法によって,相互発達モデルの視座から,高等学校の教材である「三角比」(数学I),「三角関数」(数学II)に関する教授・学習過程のポイントを検討した。3年次の研究では,1年次,2年次の研究を継続するとともに,相互発達モデルの理論的基盤となっている各種の認識論の視座から,教師の数学観や授業観が与える授業構成,授業研究への影響などを検討した。新型コロナウイルスの影響により研究期間の延長となった4年次の研究では,目的3にかかわって,「箱ひげ図」や「三角比」,「三角関数」の授業モデルの省察を通じて,相互発達モデルに基づく数学科授業の実践的原理の検討を進めた。
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