研究課題/領域番号 |
19K02743
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研究機関 | 大阪大谷大学 |
研究代表者 |
地下 まゆみ 大阪大谷大学, 教育学部, 准教授 (20406804)
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研究分担者 |
岡 みゆき 大阪大谷大学, 教育学部, 准教授 (20511893)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 幼児期 / 防災教育 / 体力・運動能力 |
研究実績の概要 |
日本では自然災害が多発している。そのため、保育・教育においても子どもの防災教育の必要性が高まり、実際の発災状況を想定した避難訓練などが実施されている。そこで、本研究ではまず、幼児期の子どもたちに対する防災教育の現状、避難時の子どもの体力・運動能力に対する保育者の捉え方について質問紙によりアンケート調査を実施した。その結果、最寄りの避難所までの距離が5㎞以上である場合には、園児が最寄りの避難場所を知らないと回答する保育者が多く、最寄りの避難場所まで避難する活動は年間を通してほぼ実施されていなかった。しかしその一方で、4歳児・5歳児の園児が避難所まで自力で行くことができる体力・運動能力があると回答した割合は9割を超えている。園児が実際に避難所まで避難する活動経験はないが、4歳児・5歳児の子どもが避難する体力・運動能力はあるとの回答率が高くなった理由は、日常的に運動遊びを実施している点が関係している。本調査回答のうち、約7割が通常保育として体力・運動能力向上のための運動遊びを週1回以上実施しており、さらに約9割が通常保育以外の自由時間に行う運動遊びを週1回以上行っていた。 避難訓練で使用している避難経路が発災時には安全ではないと不安に感じている保育者や保護者も多い。平常時には舗装された安全な道路であっても、発災した時にはたとえ大人だけで避難するとしても危険な場所となる。危険な場所を判断し、適切に避難行動をおこなうために幼児期の子どもにとって必要なことは、身体認識力や空間認知能力が育まれる運動能力である。保育・教育現場では、物や人にぶつかる子どもが増えているといわれている。幼児期に多様な動作を経験し基本動作や感覚を身につけることは、危険個所から避難する力と関係する。今後は、今回の調査結果をもとに、防災教育に関係した幼児の体力・運動能力を育てる具体的カリキュラムを立案する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度である本年度は、幼稚園・保育所・認定こども園における防災教育の現状と課題を知るために質問紙によるアンケート調査の実施とともに、防災教育を意識した運動遊び等の活動を実施している協力園での視察・インタビュー調査を行う計画であった。そのうち、アンケート調査については調査対象と依頼方法を変更し実施することができた。当初、各園1名の調査対象にて実施する予定であったが、経歴年数の異なる保育者に対象を広げることとした。カリキュラムを立案するにあたり、子どもに接している個々の保育者の考えを知ることにより、年間行事としての防災教育から設定保育としての防災教育に位置づけられる可能性が高いと考えたためである。また、郵送ではなく直接依頼に訪れ、協力者に調査の趣旨を説明することで適切な回答を得られると判断した。次年度には回収した質問紙の全集計を行い、分析を実施する予定である。また、協力園での視察・インタビュー調査として国内外の園での実施を予定していたが、新型コロナウィルスによる感染が拡大し、緊急事態宣言が発令される可能性や所属研究機関の方針を踏まえて令和2年度9月頃まで延期することとした。令和2年は当初の予定どおり、回収したアンケート調査の分析を行い、4歳児・5歳児の各年齢における体力・運動能力と防災教育を連携した具体的カリキュラムの立案の実施を行うことを主軸とし、研究協力園等の視察・インタビュー調査については新型コロナウィルスに対する国の指針に従い、進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
幼児期の防災教育として幼稚園・保育所・認定子ども園にて行われている活動は、1)地震・火災発生時の避難訓練が主体的取り組みであり、地震に関する絵本や紙芝居の読み聞かせ、ビデオ等の視聴といった活動が年計画の行事として取り組まれている、2)地震や火災に関する防災教育は多いが、洪水や液状化、がけ崩れなどの災害に関しての実施報告は少ない、3)子どもの自助力として必要な体力・運動能力に関しては意識がされておらず、子どもにとって能動的な防災教育の取り組みはほとんどない点が挙げられる。園で日常的に運動遊びを実施していることから、子どもたちには避難する体力があると考えている保育者は多い。そのため、保育者がすでに実践している既存の体力・運動能力向上を意識した運動遊びの活動に新たに防災教育のねらいを加えることにより、既存の活動が子どもの防災教育の観点を含む総合的な活動へと発展し、年間行事として実施されている受動的な防災教育が能動的な活動になると考える。実践する保育者が無理なく防災教育を実施できるための具体的な実践方法・ねらいや評価観点を提案することが必要である。 地震だけでなく風水害など自然災害によって多くの人的物的被害が毎年報告されており、防災教育の必要性が国内外で問われている。今後の地球温暖化に伴う自然災害の多発・拡大が懸念されている中、先駆的な幼児期の防災教育の在り方が求められている。リモート社会に対応した、防災教育に関する動画等の制作も検討予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度は保育所・幼稚園・認定こども園を対象に郵送による質問紙調査を実施し、国内外での防災教育を意識した運動遊び等の活動を実施している協力園の視察を予定していた。令和元年度予算として質問紙調査の調査経費を計上していたが、調査対象と調査紙配布方法を熟考しアンケート調査を実施したため、想定していた期間より実施期間を要することになった。そのため、回収できた全回答の集計・分析に必要な諸経費を令和2年度分に移行した。 また、協力園の視察を行うにあたり、令和元年度は近隣地域に位置している園の参与観察のみでの実施となった。令和2年度は国内外での視察調査の実施ならびに質問紙調査を含めた研究成果の学会発表を計画しており、令和元年度に実施できていない国外の視察調査ならびに学会参加旅費を計上している。
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