主権者教育につながる「公共」科目の学習指導要領解説では、哲学・倫理学的な知見を用いて政治経済などの公共政策的な事例を考えることが、要求されている。そこで本研究は高校生が倫理学的な思考ツールを用いて、法・政治・経済などの身近な公共政策的なテーマを討議し、学習することができる教材および研究書を作成することを第一の目標としてきた。 その研究成果として、2021年7月に『討議事例から考える「公共」の授業』、中谷常二編著、清水書院を刊行した。本書前半では功利主義、義務論などのテーマで倫理学理論に対する理解を深め、後半では環境問題、移民・難民問題などの社会的課題とその倫理学的観点からの解説がなされており、高校教員が科目研究に用いることができる。 本書に掲載された教材を用いて、2020年11月広島県立忠海高等学校、2021年5月東京家政学院高等学校、2022年6月に大宮開成中学校において模擬講義を行うことができた。特に2023年度においてはハワイ大学キース・サクダ教授と教育法についての研究交流を行い、サクダ教授が2023年9月に近畿大学付属高等学校において本研究の成果を踏まえて模擬講義を行った。 また、本書の教材としての活用方法などについて、2021年6月に第31回日本公民教育学会全国研究大会において「倫理学を活用する新科目「公共」の教材作成について」と題して、2022年6月に第32回日本公民教育学会全国研究大会において「高校生を対象とした倫理学的思考の教示方法についての一考察」と題して学会発表を行い、有意義な質疑を行うことができた。 本研究における知見は、単に高校社会科の教材にとどまらず、広く社会人教育、社会問題解決のために活用できた。一例として2023年10月には、論文「公務員の職業倫理-長時間労働との関係を探って」、『日本労働研究雑誌』という形で公刊された。
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