研究課題/領域番号 |
19K02748
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
中島 寿宏 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (10611535)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 体育授業 / コミュニケーション / 対話的学習 / フィードバック / 授業改善 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,小・中学校の体育授業での授業改善を目指して,(1)コミュニケーションの可視化データを授業者に提示する授業フィードバックシステムモデルの構築,(2)フィードバックシステムの効果検証,および(3)児童生徒の学習成果の検証することを目的としている. 2019年度は,研究代表者の所属大学附属小・中学校において,体育授業改善のためのカンファレンスのパイロットテストを実施し,言語的コミュニケーション量およびネットワークの様子についての可視化データを授業者にフィードバックすることで,授業者は自身の授業内容・授業成果を振り返るための有効な要素になることを確認できた.コミュニケーション以外にも,児童生徒の学習カード記述内容や授業中の発話記録も質的データとして解析処理することで可視化データとして授業者に提供した.授業者は自身の主観的な捉えと一致する点や一致しない点について把握することで,その後の授業改善に向けた具体的な方策を検討することが可能となっていた.また,研究代表者の所属大学の附属中学校では,コミュニケーションを活性化するためのモデル構築のため,全学年を対象として実験群と統制群を設定した大規模な実験授業を実施した.その結果として,コミュニケーションを活性化がみられるグループ編成,生徒の姿勢,授業者の関わり,学習活動の設定などが検証された.これらの結果の一部については,日本スポーツ教育学会および北海道体育学会の年次大会において報告している. また,可視化データのフィードバックによるカンファレンスモデルの検証については,札幌市内の公立小学校においても実践を行い,その有効性についての検証ができた.この実践・調査にあたっては札幌市教育委員会との共同研究事業のプロジェクトの一環として実施し,その成果を札幌市・北海道で広く広報していく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では2019年度では,1)3年間の調査スケジュールおよび調査対象となる学校・学級の状況確認,2)大学附属学校におけるパイロットテスト実施による調査プロトコルの確立と授業カンファレンス実施による授業改善サイクルの確立の試み,3)授業者の体育授業改善による児童生徒の学習効果向上の調査検証,という3つを研究の柱として考えていた.結果としてこれら3つについてはおおむね順調に実施することができ,二つの学会での公表にまで繋げることができたことから,「おおむね順調に進展している」と判断した. 今年度の研究による成果として特に重要と考えられることに,これまで実践例のない授業内のコミュニケーション状態を可視化し授業者にフィードバックすることが,授業改善に大きく貢献する可能性が示唆されたことが挙げられる.義務教育の現場ではほとんど試みがみられなかった,ビジネス顕微鏡の使用によるコミュニケーションの量的データ指標としての状態の可視化を授業改善プロセスとして教育現場に実装例として重要な事例となった.また,授業者側の取組が児童生徒のどのような学習効果として現れたかについて可視化し評価するプロセスについても,まだ試行的ではあるが,一定の効果が認められることが明らかとなったという点で大変重要な研究成果であると考えられる. さらに,今回の附属小学校・中学校,札幌市内小学校でのカンファレンスモデルが,ある程度の効果が期待できることを示すことで,教育現場との信頼関係強化にも繋がっている.2019年度に調査を行った学校からは,すでに2020年度以降の研究フィールドとしての調査継続についての承諾を得ることができている.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度では,本研究課題における基礎的な実践・調査を実施することができた.特に教育現場との関係強化や授業改善のモデル提供に結びつく研究成果が得られたと考える.2020年度ではさらに発展的な研究の成果のため,1)継続的でより効率的な授業カンファレンスの実施を計画している.2019年度では比較的短期的なスパンでの実践・調査であったが,2020年度については単元全体をひとつのユニットとした長期的なカンファレンス・分析の実施から,授業者や児童生徒の変容についても検証を行う.次に,2)授業での可視化データの精選と授業者へのフィードバック方法の再検討が必要となる.2019年度では様々な授業データを可視化し授業者とカンファレンス参加者にデータ提供をしていたが,2020年度ではデータの優先度の検討を行い,より重要度の高いデータを中心的にフィードバックできるように検討を行う.また,3)授業者との協議による授業成果指標の検討を行うことが必要と考える.2019年度は授業効果の指標として児童生徒のコミュニケーション量,身体活動量,発話,学習カード記述内容,授業後の質問紙調査結果を採用してきたが,2020年度では授業成果を判断するための指標として必要な指標・視点の整理を行うことで効率的な研究推進を目指すこととする.2021年度では,それまでの2年間での実践の分析から,小学校・中学校の教育現場に有用なカンファレンスのモデル構築を行い,その一連の過程を体育授業の改善システムとして教育現場への実装を実現することが最終的な目的と考える.2020年度の研究成果の報告については,昨年度に発表している学会において継続研究として公表する予定でいる. 2020年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響で調査・発表が滞ることも想定される状況ではあるが,可能な限り研究スケジュールに沿った進行を目指す.
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