研究課題/領域番号 |
19K02757
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中森 誉之 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (10362568)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 学習指導要領 / 統合型の技能学習指導 / 授業実践 / 解読 / 理解と表出 / 認知科学 / 言語習得 / 文章処理 |
研究実績の概要 |
今年度の課題は「文レベルを超えた日本語及び英語文章理解・表出メカニズムの解明」であった。はじめに,まとまりのある音声と文字連続に対する言語処理メカニズムを検証した。私自身の成果を含めて,句や文レベルの理解・表出の研究は積極的に行われてきたが,文章レベルの研究は極めて少ない現状である。認知科学(言語習得論や言語処理理論)の知見を踏まえ,日本人を含む英語学習者を対象として,句や文の理解・表出に続く,まとまりのある聴解・読解能力発達の段階性を検証した。外国語学習者および英語母語話者に対する文章理解・表出の研究成果を網羅的に検討した。外国語学習者では脳内の翻訳メカニズムの働きを精緻に解明する必要があるが,英語母語話者を中心とした研究者にはこの重要性が認識されていないため,先行研究は非常に乏しい。脳科学や生理学,情報科学の動向調査,教育現場の初期調査は完了した。また,リーディングを中心に研究を進めている国内研究室成果,及び文章処理に関する主要な文献研究も十分に行った。こうした多方面にわたる文献研究と,それに基づく理論構築を中心に課題を探究すると同時に,中学校や高等学校の教育現場における理解・表出技能指導の実施状況を観察,分析した。現在,教師達の熱心でひたむきな努力によって,統合型の技能指導は実行されているが,手探りの部分が多く,学習者達へ過度の負荷がかかる場面も少なくはない。それがつまずきを生み出し,学習遅滞の要因ともなっている。特に素材選び,課題の準備,授業の展開と振り返りなど,改善の余地が大いにある。こうした諸課題を解決していくための手立てを考究していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コミュニケーションを志向する外国語教育の流れを受けて,小・中学校では短文を中心とする会話指導の充実が図られている。しかし,文章の理解・表出メカニズムは依然として未知な部分が多く,高等学校以降の学習指導では伝統的な訳読が基本となる。近年取り入れられているキーワードなどに基づいた推測方策では,理解の正確さが担保されず,ましてや高度な文章作成能力は育たない。また逐次訳に依存した理解・表出方法は,作業記憶への負荷上昇により思考を阻害する。まとまりのある文章を正確に理解し思考して発表するためには,連綿と受け継がれた訳読方式には限界がある。そのため,脳機能から見た翻訳システムの姿を精緻に解明する必要がある。句や文レベルの分析は多いが,文章レベルの研究は非常に少ない。(これこそが本研究の動機である。)文レベルを超えた文章理解・表出は,どのようなメカニズムが支えているのであろうか。2020年度から英語教育全体が大幅に変わる。円滑な統合型の技能教授学習に向けて,一日も早い研究成果の早期具体化と還元を目指している。英語特有の処理方策を経て高次の理解,母語と共通の解釈基盤へと情報は送られていく。円滑な過程では,音声や文字の解読,句レベル,文レベルの理解,連続した文を次々に解釈する段落レベルへと高速で遅滞なく処理が実行される。しかし,いずれかの部分で処理が停滞すると流れが不安定となり,停止して破綻することもある。表出時は,伝えたい内容を表現するための言語形式を瞬時に脳内から検索して,音声化・文字化できるかが最重要である。外国語学習では,どの部分でつまずきが生じるかに留意して,きめ細かい対応が必要である。現在までの研究で,音声と文字の解読,句,文レベルまでは解明してきたが,文章,段落レベルの理解・表出について探究を進める。
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今後の研究の推進方策 |
国際化時代,日本人にとって聞く・話す・読む・書く能力の安定的育成は不可避となっている。学術,文芸,政治経済,産業界など,日常生活を含めた広い領域で運用可能な英語力が必要とされているためである。こうした実情から,近年の学校英語教育では,コミュニケーションのための単語や句,文といった,比較的短い言葉の理解と表出は,積極的に学習指導されている。一方,まとまりのある文章処理のメカニズム解明に基づく実践は展開されてはおらず,母語と推測に依存した方法が主流である。学習指導要領で打ち出されたように,今後中級・上級段階では,読解や聴解の上で話す・書く統合型の技能学習指導が中心となる。本研究では,円滑に統合型の技能学習指導を進めていくに当たり,文レベルを超えた外国語理解・表出メカニズムを解明し,学習者の言語情報処理過程に即して,段階的に外国語運用能力を育成するための学術的探究を展開し,最適な教授学習理論を構築する。理論研究と実践研究を両立させながら調和と融合を図り,認知科学を根拠として,学習者の視点に立った英語文章の理解・表出学習指導理論を提案する。外国語文章理解・表出の理論基盤を精緻化し,学習指導への応用と検証を行う。来年度は,現在まで収集してきたデータの解釈および理論化を経て,書籍にまとめ始める。この作業には2年程度を見込んでいる。統合型の技能学習指導では,理解と表出を同時ないし順々に行うため,いずれかの処理でつまずくと,学習指導が円滑に進まなくなってしまう。従来の翻訳型の学習指導では想定されていない諸課題を,複数内包しているのである。こうした問題に対応していくためには,学習の段階性に対して十分に気を配り,素材の質と量に応じた指導技術が求められる。これらを勘案して精緻な教授学習理論を構築していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
一年目または二年目に実施を計画していた英国での調査研究が,新型コロナウィルスの流行による渡航・入国制限のために延期となった。この海外旅費相当額が繰り越しとなっている。計画段階より,研究の序盤または中盤での渡航を予定していたため,研究自体への影響は全く生じてはいない。
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