今年度の課題は「認知科学を根拠とする統合型英語教授・学習理論の検証と教育現場への還元」であった。 英語教育界では,教材・教具の提供が先行して,教師たちの試行錯誤と直観に基づいて教授学習支援が展開されており,理論的な裏付けを求める声が強く寄せられている。認知科学の見地から,児童や生徒のための基礎研究を,学習者の立場に立って重点的に行った。初級段階に対応する単語や句,文の学習支援は広まっているが,手探りの状態である,中級段階以降のまとまりのある文章レベルに対応するために,学術的根拠に裏打ちされた,きめ細かい教授・学習理論を緊急に整備した。文章理解に基づく円滑な表出を目指す,統合型の技能学習指導に対応した全く新しい提案が,切実に求められている。現在,理論に支えられたカリキュラム設計やシラバス・デザイン,指導技術の確立,デジタル技術を活用した教材や教具の開発に生かし,視聴覚融合,言語処理,AI専門の研究者や技術者とも協力しながら,活発な意見交換と知見の普及,学習者の個人差やニーズへの対応に努めている。さらに,認知科学と教育学の調和と融合に基づく知見を,広く社会へ還元していくことにより,教育のバリアフリー化に微力ながら貢献したい。同時に,英語母語話者中心の英語教育界に対して,非母語話者教師と学習者の立場からの提言を国際的に行っている。 研究は高速で進め,当初の計画は達成した。国際的には著書1,広く社会一般には著書2で詳細に成果を公表する。原稿は完成して出版社へ入稿している。著書1では統合型技能教授・学習理論を体系的に論じており,今年度開始の申請課題が継続して採択されたため,統合型技能評価理論の知見を加えて増強している。出版社との協議の上で,2023年に出版となる。統合型の外国語教育に関する書籍は世界的に存在せず,国際的な教育学への貢献として,学習指導から評価までを包含した書籍とする。
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