研究課題/領域番号 |
19K02759
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
武田 信吾 鳥取大学, 地域学部, 准教授 (10600926)
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研究分担者 |
松本 健義 上越教育大学, 大学院学校教育研究科, 教授 (90199878)
栗山 誠 関西学院大学, 教育学部, 教授 (10413379)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 協同的な造形活動 / 混合的アプローチ / 質的分析 / 幼児 / 児童 / 視線行動分析 / 相互行為分析 / 制作過程分析 |
研究実績の概要 |
本研究は,幼児・児童が協同的に行う造形活動について,こども間の自然発生的な相互作用と,作品の制作過程との関係を質的に明らかにする。特に,双方向性の関わり合いの中でイメージがいかに共有化され,創造的な行為へ移るのか,こどもの具体的な姿から迫るため,双方向的かかわりの基本形であるペアでの活動に着目する。研究メンバー3者がそれぞれ独自に開発した分析手法を組み合わせることにより,こども間の相互作用の質的分析について混合的なアプローチを行う。 2019年度は,研究メンバーの間でミーティングを重ねた上で,研究代表者の所属先において,こどもがペアで行う描画制作の活動データを得るための調査を実施した。分析の結果,次の知見が得られた。幼児の活動事例では,ペアの間で視覚的な意味内容を共有する働きかけが生じておらず,活動はまだ協同的に行われていないと捉えられたが,言葉や視線のやり取りと描画内容とのつながりを勘案すれば,相手を意識するがゆえに自分の活動の方向性が定まっていると理解された。相手を気にかけることによって場が共有され,言葉のやり取りによって互いに抱いている意味世界が共有されつつあり,そこに既に協同性の萌芽があるとも考えられた。 児童の活動事例では,互いに向かい合う形での描画活動が,視覚的な意味内容が共有されにくいポジショニングとなっていた。ただし,途中で一方の児童が移動してもう一方の児童の側に立ち,画面の中央に描画を行ったことで,互いの描画領域を隔てる見えない境界線が越境されたことを象徴する出来事も見られた。その際,移動した方の児童は,もう一方の児童が描いたものと同型にモチーフを描いた後で,互いの描画領域に線を引っ張っており,相手のことを意識しつつ両者をつなごうとする意図が読み取れた。相互の影響関係が互いの活動を牽引し合い,協同性が生じる契機を与えていたことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の前半は,大阪大学中之島センター大阪サテライトを使用した対面での会議と,オンラインでのテレビ会議により研究ミーティングを定期的に実施し,研究メンバー3者の分析手法である「視線行動分析」,「相互行為分析」,「制作過程分析」のそれぞれの特色について相互に理解を深め,質的アプローチとして混合的に用いる方略を確認した。 後半は,鳥取大学附属幼稚園・小学校の協力のもとで研究協力者を募り,鳥取大学地域学部附属子どもの発達・学習研究センターの行動観察室において,幼児後期~児童前期のこどもがペアを組んで造形活動を行う調査を実施した。調査には,合計で幼児ペア2組と児童ペア3組が参加した。調査で行った造形活動は,用意された絵の具とパスを用いながら,複数枚画用紙をつないだ画面に自由に絵を描くという内容である。視線行動分析を行うために用いたグラス型アイトラッカーの記録状況が良好であった,幼児ペア1組と児童ペア1組の活動状況を主として分析した。その成果は,研究メンバーが所属する学会の研究大会において発表する予定であったが,同年度末に発生した新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて,大会は中止に見舞われた。 また,当初の研究計画では2020年度以降に予定していた海外での調査について,受け入れ先の現地学校との調整の結果,2019年度に実施することとなった。科研費の前倒し支払いも申請しながら準備を進めていたが,先述のウイルス感染拡大の影響を受けて,直前になって調査は取り止めることとなった。 なお,本研究事業は,研究メンバーの各所属先で研究倫理委員会の審査を受け,承認された上で進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,こどもの造形活動について直接記録したものを分析対象としており,新型コロナウイルスの感染拡大の影響で,2020年度(特に前半)は活動データを得る機会を設けることできない状況となっている。差し当たって,2019年度に行った調査の結果について時間をかけて詳細に分析を行い,厚みのある記述での論文化を目指したいと考えている。ウイルス感染状況が収束次第,国内での調査とともに海外での調査も開始し,活動データについて発達的差異と文化的差異の両側面から多重的に比較して,協同的な造形活動におけるこどもの特徴的な行動についてさらに検討を加えていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(次年度使用額が生じた理由) 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で,2019年度に実施する予定であった海外での調査を中止したことが主な理由である。 (使用計画) 先述した通り,海外での調査はウイルス感染状況が収束次第,実施する計画であり,その際の費用に充てる予定である。
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