研究課題/領域番号 |
19K02761
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
伊藤 真 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 准教授 (70455046)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 文化的多様性 / 外国人児童生徒 / 音楽教育 / 芸術教育 / ドイツ |
研究実績の概要 |
令和2年度は、外国人児童生徒を取り巻く社会的環境と芸術教育(Arts Education)との関わりについて、主として文献研究を行った。具体的には、(1)国内で蓄積されている調査研究の動向を把握すること、(2)ユネスコの芸術教育ネットワーク(UNESCO UNITWIN)の報告書を音楽教育の文脈から精査すること、であった。 (1)国内の研究動向については、外国人児童生徒の多くがネイティブにもつ文化的背景(母文化・母語)と実際に生活している地域の文化・言語のはざまに位置し、発達段階に応じてアイデンティティの形成にゆらぎが生じることが中心的課題として挙げられた。また、初等・中等教育のみならず高等教育においても、多様な文化的背景をもつ学習者集団が共生する際には何らかの困難が生じ、文化的なマジョリティとマイノリティの関係性の構築と双方がもつアイデンティティの質が困難に立ち向かうときの鍵となることが明らかとなった。 (2)ユネスコの芸術教育については、UNITWINの報告書の記述から芸術教育の中で音楽教育の果たす役割と具体的な取り組みの一端が確認された。2017年4月に開催されたUNITWIN会議は重要な位置づけがなされており、その中では特に芸術教育と文化的多様性の領域における実践的な展開例と研究上の課題が提示されていることが明らかになった。本研究に最も示唆を与えたのは、ドイツにおける音楽的手法をとおしたダイバーシティ教育の歴史と実践的展開に関する考察である。ドイツの歴史がもつマジョリティとマイノリティの課題は、外国人労働者の施策とかれらを取り巻くドイツ人の間の関係性構築や、東西ドイツ統合による東側の西側への同化問題、マイノリティのもつ音楽や芸術文化の大衆化などが背景となっており、国家の政治的状況や経済的状況が文化教育や芸術教育のあり方に大きな影響を与えうるものであることが再確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、令和2年度に海外調査を行い、ドイツの公立学校における異文化間教育としての音楽教育の事例を分析する予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大への対応によって、海外渡航ができず、対象とする学校は国内外ともに閉鎖され調査ができる状況ではなかった。また、大学教育においても新型コロナウイルス感染症への対応が迫られ、本研究課題のエフォートは著しく減少した。これらを背景に、当初の計画は全面的に変更せざるをえなかった。本年度は可能なことを可能な範囲で実施するにとどまったが、このことが本研究課題の進捗状況に直接的に影響を与えた。
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今後の研究の推進方策 |
今後も状況はすぐに好転しないであろうから、本研究課題の目的を達成するための方法を一部見直し、可能な限り文献による調査と分析を行う。また、状況に応じて現地調査を加えることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた海外調査および国際学会への参加ができなかったため、次年度使用額が生じた。これらは研究課題に含まれる教育実践とその検証、分析対象となるデータや文献・資料の購入、研究成果の発表等に用いる予定である。
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