研究課題/領域番号 |
19K02761
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
伊藤 真 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 准教授 (70455046)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 文化的多様性 / 音楽教育 / 音楽エージェンシー / 文化理解 / 教師教育 / 音楽ワークショップ / 外国人児童生徒 |
研究実績の概要 |
令和3年度は、多文化的状況における音楽学習環境として音楽教師に焦点を当て、①音楽教師が生徒の音楽エージェンシーをみとる視点、②音楽教師に求められる多文化的視点について文献の整理を行った。また、③日本における言語・文化的に多様な背景をもつ子どもを対象とした音楽活動の効果について成果のとりまとめを行った。 ①移民の生徒が経験する音楽教育は、本来は生徒自身のアイデンティティを構築する要素である生徒の側の文化から出発するべきであろう。しかし、多くの場合、多文化的環境のクラスでは生徒間で「マジョリティーの音楽」「マイノリティーの音楽」といった枠組みが無意識的に形成される。それを無視した音楽教育は生徒の相互理解を促進することにはつながらない。学習集団の感覚を形成するために音楽がひとつのパラメータとして用いられる必要がある。したがって、集団アイデンティティに対していかに生徒が自己アイデンティティを交渉し、相互に尊重・理解・受容することができるかが課題となる。文化理解に加えて、生徒の文化の音楽をを捉えることが音楽教育の出発点となり、民主主義の原則に基づいて生徒相互の尊敬と寛容を育成する教育的文脈をつくることが教師には求められる(Karlsen 2014)。 ②多民族国家シンガポールの教員養成では、多様な音楽に触れることを通して文化的背景から理解をすることが目指されている。例えばNIEのプログラムでは、西洋音楽のスタイルで育った学生に対して、マレーシア、中国、インド、タイなどのアジア圏の音楽をフィールドワークやアンサンブルなどの体験を通して学び、文化的多様性における社会的・教育的哲学基盤を強化している(Cain 2015)。 ③2019年度に実施した音楽ワークショップについて、打楽器を用いたアンサンブル活動が子どものポジティブな感情を増幅させる効果が示された(ito et al. 2022)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルスの影響を受けて当初の研究計画を修正する必要が生じ、ドイツを中心にしながらも多文化的状況において音楽学習を行う国・地域へと範囲を拡大することや、複層的な状況を整理するべく文献研究を中核とすることとしたことによって、研究目的達成への進捗状況は改善された。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は多文化的状況で行われる音楽学習について、学習者(マジョリティとマイノリティ)と教師の2つの側面から考察を行う。学習者の集団アイデンティティと個人アイデンティティがどのように交渉されうるのか、教師はそれらをどのようにみとるのか、それらをふまえた教師の力量形成について明らかにし、これまで行った研究内容を総括する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた海外調査ができなかったため、次年度使用額が生じた。これらは研究課題の分析対象となるデータや文献・資料の購入、研究成果の発表等に用いる予定である。
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