令和4年度は、多文化的状況で行われる音楽学習を学習者と教師の2つの側面からみとるための基盤づくりとして、通常の音楽科授業においてどのような学習言語が用いられているのかについて、教師の発話に着目してその特徴を明らかにした。小学校と中学校の授業を対象に教師の発話を分析したところ、疑問文の言語形式を用いながらもその発話意図は発問ではなく「説明」や「命令・指示」「確認」である場合が確認された。また、教師が「命令・指示」の意図を児童生徒に伝達する際に用いられる言語形式が、命令文や指示文ではなく叙述文である場合が確認された。このような言語形式と発話意図の不一致は、日本語を母語としない児童生徒にとって教師の発話意図を明確に理解することを妨げる要因となりうる。つまり、音楽科授業においても日本語を母語としない児童生徒が学習言語を習得するなかで、状況から発話意図を推論したり、言語形式と発話意図の不一致があることを知ったうえで理解につなげるといった学習方略の獲得が目指されることが示唆された。
研究期間全体を通した成果として、文化的多様性を尊重した音楽科授業を実現する学習環境に求められることは、以下のように整理される。①学校内外において多様な文化教育(芸術教育)の機会提供があること。②子どものアイデンティティのゆらぎに配慮しながら音楽科授業のなかで学習言語の獲得を支援すること。③学校と社会が連携した学習環境を構築する必要があること。④言語学習と音楽学習を両輪とした授業構成を行う必要があること。
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