令和元年度・2年度には,1)ミクロの視点から捉えた説明的文章の構造を支える要素「基本的な結束性」の導出とマクロの視点から捉えた説明的文章の「論理の型」の導出,2)小学校国語科教科書,中学校国語科教科書,高等学校国語総合教科書に所収された説明的文章の構造図作成方法の確立,3)説明的文章の構造の複雑さとワーキングメモリの関係の検討,4)筆者のものの見方とテキストベース・状況モデル構築の関係の検討などを行った。当初の計画では,説明的文章の構造的な複雑さ,構築されるべき状況モデル,その手がかりとなる記述内容を捉え、それらの関係づけを明らかにすることを目指していたが,その目標を達成するとともに,さらに筆者のものの見方という新たな観点も明らかにすることができ,計画を越えた成果を出すことができた。 ただし,ここまでの研究はテクスト分析を元にした考察が中心であったため,さらに研究の範囲を広げ,令和3年度には読者の感じ方にも焦点を当てることにした。カリキュラムを構成する目標と内容について蓋然性を高めることができると考えたからである。そこで認知心理学における先行研究の検討を行い,自己効力感に可能性を見出すに至った。具体的には,説明的文章の読みに関する読者の自己効力感尺度の作成に向けて,自己効力感の概念について検討した。その結果,自己効力感という概念がBanduraの社会的学習理論に支えられており,読者・読む行為・テクストの相互作用としての読む行為についても,その対象と考えてよいことが明らかとなった。また,説明的文章の読みという特定の状況においては,自己効力感とは読む行為をうまく成し遂げることができるという確信であることが明らかとなった。この検討結果を踏まえ,説明的文章の難易度を捉えることに活かす自己効力感尺度の作成方法の検討を行い,調査問題作成の基盤を作ることができた。
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