研究課題/領域番号 |
19K02782
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
守山 紗弥加 三重大学, 教養教育院, 特任講師(教育担当) (50701439)
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研究分担者 |
松本 金矢 三重大学, 教育学部, 教授 (10239098)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 観察 / 記録 / 間主観的把握 / ものづくり・造形 / 教員養成 / 省察 / ドキュメンテーション |
研究実績の概要 |
本研究は、教員・保育者養成課程においてものづくり・造形教育を学ぶ学生の制作プロセスに着目し、①エピソード記録等の現象学的手法を用いて参加観察・分析を行い、制作プロセスの解明を行うこと、②ものづくり・造形教育のプロセスに欠かせないもの・ひと・こととの対話をより促すための仕組み(教育的仕掛け)を提案すること、③その仕組みを導入した教育実践を行い、仕組みの有効性について検討すること、を目的とするものである。 1年目(2019年度)は、高等教育におけるものづくり分野の継続的な参加観察を進めた。本研究の第一の特色である制作過程への着目と、そこでの多様な学びや経験を現象学的に把握・記録することを中心とした。グループによる作品制作を目的とした授業において、ニーズ調査・アイデア発想・イメージ形成の各段階から、それらに基づく制作活動、作品完成後の最終発表会にわたって収集したドキュメンテーションの一部を研究代表者・研究分担者で検討した。成果物としての作品が学習評価の対象となりがちなものづくり・造形分野において、実際には制作行為・空間が当事者たちにとっていかなる文脈や社会的・文化的背景の中でそのような振る舞いやあらわしが表出してきているのかという点について、事例検討を通して考察した。 具体例として、学習者たちの日頃からの「もの」そのものへの関わり方や「こと」の受け止め方、対処の仕方等がものづくりの方向性や各所での技術判断、制作行為に影響を与えていること、また、授業実践者(研究分担者)ら専門家による支援・指導場面においては、ものづくり経験の少ない学習者にとって十分な技術獲得や汎用に至るために必要な、問題状況の整理やイメージングがあること等が示唆された。省察から明らかになってきたそれらの点を、産業技術教育学会において成果発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、研究分担者による授業実践において、本研究課題が目的とするものづくり・造形活動のプロセス解明と、それに基づく協働的省察の場の創出に向けた実践計画・実施・省察の第一段階を遂行した。具体的には、これまでも継続的に行ってきた対象授業の参加観察・記録を中心に据え、授業計画段階から授業実践者(研究分担者)と授業目的、授業進行、環境構成、検討体制等について協働開発を進めた。また、受講生による観察・記録方法の検討・導入を行い、最終発表会においてそれらをドキュメンテーションの一部として含めた省察の場を設けた。参加観察者による記録は収集した画像・動画記録についても最終発表会で使用できるドキュメンテーションとして提示・活用を図った。エピソード記録に関しては、1年目の実践では毎回の授業実践後、授業実践者(研究分担者)と研究代表者(参加観察者)とで記録物をあいだにおいた対話的解釈過程を設け、教科専門(研究分担者)、教職専門(研究代表者)両視点による考察を進めてきた。加えて、産業技術教育学会において、「技術教育における制作過程との対話を促すしかけ」として、研究成果報告として行った。グループ制作に関するエピソードを取り上げ、学習者と「もの」「こと」との関わり方の関係、従来の技術実習での学習経験との比較等の観点から検討した。それらの検討から、少ないものづくり経験の中で、自分たちの生活や文脈を見つめながら行う一連のものづくり活動の持つ意味や重要性についても示唆が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
2年目以降も教育実践の観察・記録を継続しつつ、ものづくり・造形活動のプロセスにあるもの・ひと・こととの関係力や感性的側面の視点を加え、考察を進める。また、1年目の課題として明らかになってきた受講生自身による記録方法、参加観察者による筆記記録と画像・動画による記録の取り扱いとその共有や、協働的省察の場の設定として、作品完成までの制作段階で導入可能な形態や内容を検討する。その一つとして、制作場所にオンタイムでの制作状況や出来事の俯瞰ができるようなウォールドキュメントの導入を検討していく。 上記の計画を進める上での課題として次の懸念が挙げられる。現在、新型コロナウイルスの影響により、幼・小・中・高・大学の教育現場における従来の教育実践の実施が難しい状況にあり、主対象として計画している実践現場において、複数人の対面式でものづくり・造形活動を行うことが不可能な状態である。そのため、ものづくり・造形行為の理論的考察に重点を置くことも視野に入れ、哲学的、歴史的、心理学的観点を取り入れながら検討する予定である。先述のウォールドキュメントの可能性を探るため、グラフィックレコーディングについても調査を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により、2020年3月以降の学会発表や調査研究等の出張が中止になったため、予定していた経費(主に旅費)を繰り越すこととなった。2020年度以降の研究計画にあらためて組み入れるとともに、オンラインでの調査研究、会議等を進める上で必要となる物品購入、謝金等の使用計画を検討する。
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