令和5年度は、大正期の卒業記念画の調査、および明治後期に発行された毛筆画教科書に関する調査を行った。 卒業記念画の調査では、前年度の博労小学校所蔵作品に関する調査結果を踏まえ、旧平米小学校卒業記念画のうち、大正期に尋常科児童が制作した作品と図画教科書掲載図版との照合を行い、臨画とみられる作品を特定、卒業記念画と図画教科書との関係を検証した。調査の結果、児童が描いた図画作品には国定教科書のほか、博労小学校所蔵作品と同様に国定教科書発行前に出版されていた小学校用図画教科書、明治期から大正期に発行されていた中等学校用図画教科書を手本にしたとみられるものが含まれていた。また、教科書のモノクロの図版を参考に児童が彩色を施したものや、他の図版との合成作品などがあり、工夫した表現もみられた。画題の特定という調査を通して、大正期に児童が描いた教科書掲載図版を確認し、国定教科書が使用されていた時代に広く手本を求めた実態を明らかにすることができた。 毛筆画教科書に関する調査では、明治時代後期に発行された教科書を取り上げ、その内容や教科書を手本に描いたとみられる作品の分析を行った。調査では小学校用教科書と中等学校用教科書を分析し、題材の構成などを明らかにするとともに、毛筆画教科書の図版を参考にしたとみられる児童画を取り上げ、20世紀初期に行われていた毛筆画教育について、今日の教育実践との違いを踏まえ考察を行った。 研究期間全体における成果として、小学校に保管される卒業記念画の画題及び題材に関する調査を通して、大正期及び昭和前期の作品に明治期以降に発行された小学校及び中等学校用図画教科書を手本にしたとみられるものが残されていることを明らかにすることができた。また、卒業記念画を活用した学校独自の取り組みを調査し、地域とのつながりをつくる作品の意味について考察した。
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