本研究では,2019年度に,協働的学習を推進している中学校数学科教員1名を選出し,その教員の担当している1クラスを選出し,2学期にデータ収集を実施した.データの内容にさまざまなバリエーションを持たせるために,数週間の間隔をあけて, 3回にわたって,数学科授業のビデオ収録,音声収録,質問紙調査を実施した.ビデオカメラは教室の斜め前方と,選出した1グループ(抽出グループ)の近くに設置し,学級全体の様子と抽出グループの活動の様子を収めた.抽出グループおよび他の1グループについては,机上にICレコーダを設置し,グループ内の会話データを集めた.質問紙調査は,授業の振り返りシートの形態で行い,グループでのヘルプ・シーキング行動についてクラスの生徒全体の考えを聞いた. 2020年度には,1学期と2学期において,それぞれ2019年度と同様に数学科授業においてデータ収集を実施し,どのようなヘルプ・シーキングがなされているかそのタイプ,頻度,変化,およびその背景について質的研究法を用いて分析する予定であった.しかしながら,新型コロナウィルス感染症の感染拡大により,2020年度実施予定のデータ収集は2021年度に延期して実施した.2022年度には,これまでに収集したビデオおよび音声データをすべて文章化し,質問紙データは表にまとめ,生徒たちのヘルプ・シーキングに関してどのようなパターンが見られるか質的分析を行った.分析の理論的枠組みとしてエンゲストロームの活動システム理論を援用し,ヘルプ・シーキングを多面的にとらえることができた.ヘルプ・シーキングは教授・学習の活動システムの中で様々な役割を果たしており,数学科授業における生徒たちのヘルプ・シーキングを促進にするには,システムレベルからの対応が不可欠であることが示唆された.
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