2021年度は,【課題Ⅱ】に対応する実績として,逆転推論を含む証明の生成過程について,命題の「認識値」と命題の「ステータス」の視点から分析し,その特徴を明らかにした.その結果は,査読付き学術誌に掲載された.また,ディスコースの拡張の中で,命題を省略して推論を飛躍させる生徒の認知機能について,意図的に飛躍や省略した命題の認識値を視点に,分析した.その結果,ディスコースの拡張のモードが,論を組み立てるのに必要な情報は全てないといけないという「置換モード」ではなく,論の全体像を把握できる程度の情報量があればという「蓄積モード」になっていために,飛躍や省略を伴う未完成な証明が生成されることがわかった. また,【課題Ⅲ】に対応する実績として,ディスコースの拡張のモードの転換を促進する方法を明らかにするために,未完成な証明を生成した中学生を含む2ペアに対して,6月から10月,12月と3回にわたり,教授実験を実施し,データを分析し,考察を行った.その結果,生徒が証明の中の「誤り」を指摘できたとしても,彼らが「完成した証明(complete proof)」を必ずしも生成できるわけではないことがわかった.そして,生徒が完成した証明を作るには,証明の構造に関する理解だけでなく,推論ステップの飛躍の度合いの認識と証明に使われる命題の繋げ方(ディスコースの拡張)についての認識が鍵であることが明らかになった.さらに,今回の教授実験を通じて,生徒の考えは徐々に修正・改善されることを目の当たりにし,どうすれば未完成な証明が改善・修正されていくのが明らかになってきた.しかし,生徒の中には,「完成した証明」を自力で生成できるようになった生徒もいる一方で,「完成した証明」に至らず,未完成な証明に留まる生徒もいたことから,手立ての更なる改善が必要であることも見出すことができた.
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