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2019 年度 実施状況報告書

初等教育における人間と機械の共生教育のための知能機械の情意表出の研究

研究課題

研究課題/領域番号 19K02806
研究機関東京学芸大学

研究代表者

松浦 執  東京学芸大学, 教育学部, 教授 (70238955)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワードヒューマノイド・ロボット / 初等教育 / 会話生成 / 共感性
研究実績の概要

将来の知性エンジニアリング時代に向けては、人間の知的生活と知能機械との共生関係が前提となる。この観点での初等教育上の課題として、情意的相互作用を通じて知能機械との関係を養うことが重要である。本研究ではVstone社製のコミュニケーション・ロボットであるSotaを採用して会話生成を行ない、小学校3年生児童の学級で会話セッションを試みた。
児童に関連する言葉を含む返答を生成するため、リカレント・ニューラル・ネットワークによる自然言語処理を用いて、コーパス資源をSeq2Seqモデルに学習させた。コーパス資源としては、最終的に17506語収集された児童自身の活動の際の書き言葉である。教室に掲示される児童の学級活動についての省察、自由研究の文章など、少量であるが学級で共有される文書である。Sotaとの対話のため、Sotaが、音声認識した児童の発話文字列をWebサーバー経由のURLリクエストにより会話生成サーバーに送信し、返答文字列を取得して発話するシステムを構築した。これは特定児童集団の生成する言葉をもとに、その集団内の児童の発話に返答するクローズドな発話システムである。
Sotaとの会話セッションで、児童は殆どの場合Sotaに質問をした。しかしSotaは多くの場合直接的な答えができなかった。しかし、学級の言語活動を想起させるものでもあり、15%の児童がSotaの発話に学級の活動や児童の思いが反映されている事に気付いた。約半数の児童はSotaを言葉が上達するよう励まし、半数はより近く友達のように認知する感想を述べた。Sotaは多くの場合聞いたことと別の話や思いを語る様子だったが、児童は言葉を抽出し関係づけて意味と意図を見出した。その過程でSotaの主体を仮想し、自己を省察することが推測された。学級とともにロボットを成長させることは、児童が児童の活動を省察する一つの方略とすることが可能かもしれない。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

自然言語処理の深層学習モデルを用いる事によって、児童のどのような発話にも回答できるようになった。通常、児童の言葉は発音や発話の安定性が低く、音声の誤認識が起きてしまい、返答を返すことが難しい。児童のどのような発話にも、未認識や不明を意味する定型返答ではなく、何か言葉を返そうとする様子は、児童自身が日常会話で感じる事に照らして、一生懸命話そうとする気持ちを感じさせるということが、児童のSotaに対する感想から理解される。
ロボットとの会話は、質問―応答を典型とする問い合わせ型と、相槌などのような交感型とが考えられる。後者は人間の基本的行動の一つであり、人をつなげる基本機能と見られる。本研究でも不可欠の要素であるが、本年度での開発には間に合わなかった。
児童とのセッションについては、学校行事の関係と、さらに新型コロナウイルスの感染拡大への対応のため、学級が多忙になり、さらに東京都の感染者数増加傾向から早期に閉校に至り、継続ができなくなった。また大学自身も閉鎖となり、自然言語処理サーバー上の開発も停止した状況にある。

今後の研究の推進方策

本研究は、小学校児童を対象として、児童自身の言語活動を資源とし、機械との言語活動により人と知能機械との共生関係へのより良いあり方を探るものである。児童との会話活動の形態についても、一対一よりも、人間形成の場になっている児童集団とロボットとの関わりの形式を持つことが望ましい。学校での言語活動の再開は、本研究の実践部分の前提となるものである。また、対象学級も新しくなるので、言語リソースも採取し直さねばならない。
交感型発話の生成は重要である。交感型発話は、会話相手の交感的発話に対して、交感型発話の集合から選択して返答する。これを問い合わせ型発話の間に挟んで発話させることが考えられる。
さらに、相手に対する情意的発話を導入する。通常の問い合わせ確発話のみの状態に、そのまま情意的発話を挟むと不自然になってしまう。ここでの情意的発話は、人間とコミュニケーションをとる事における自分の前向きな気分についてである。
問い合わせ型発話について、自然言語処理で生成される返答は多様であるが、学習内容が発展しないと雰囲気が変わらない。自然な同じ小さなコーパスからの発話は発展性に問題がある。学級の活動の進行とともにコーパスが変化し、それに連れて会話内容が遷移するモデルが可能であるかどうかを検討する。
以上の会話のバランスを統合するものを言語活動的“主体”としてモデル化する。しかしここでは前もってプログラムせず、児童との交流の分析を重点に置き、そこから検討を起こす事にしたい。

次年度使用額が生じた理由

Deep Learning用ミニタワーPCを発注したが、年度内の納入見込みが取れなくなった。年度内に物品確認が取れないものについては、次年度に起票するようにとの経理課の指示に従い、購入費用を2020年度発注のために繰り越したため。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2019

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)

  • [雑誌論文] Expressing the Personality of a Humanoid Robot as a Talking Partner in an Elementary School Classroom2019

    • 著者名/発表者名
      Reika Omokawa, Makoto Kobayashi, and Shu Matsuura
    • 雑誌名

      Lecture Notes in Computer Science (LNCS) , Universal Access in Human-Computer Interaction, Theory, Method and Tools

      巻: 11572 ページ: 494-506

    • DOI

      10.1007/978-3-030-23560-4_36

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] ヒューマノイド・ロボットを知ることを通じた共感の形成2019

    • 著者名/発表者名
      松浦執、面川怜花
    • 学会等名
      日本物理学会講演概要集第74巻第2号2019年秋季大会
  • [学会発表] Expressing the Personality of a Humanoid Robot as a Talking Partner in an Elementary School Classroom2019

    • 著者名/発表者名
      Reika Omokawa, Makoto Kobayashi, and Shu Matsuura
    • 学会等名
      21st International Conference on Human-Computer Interaction
  • [学会発表] 主体を仮想することについて2019

    • 著者名/発表者名
      松浦執、面川怜花
    • 学会等名
      第87回形の科学シンポジウム

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公開日: 2021-01-27  

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