研究課題/領域番号 |
19K02806
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
松浦 執 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (70238955)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヒューマノイド・ロボット / 初等教育 / 会話生成 / 共感性 |
研究実績の概要 |
知的判断を機械が担う時代に向けては、人間の知的生活と知能機械との共生関係にも注目していく必要がある。本研究では初等教育上の課題として、知能機械との共生的関係において人間が機械にもつ情意的関係に着目している。本研究では主にVstone社製ロボットのSotaを採用して、小学生との情意的な会話生成の効果を検討していた。しかし、2020年の新型コロナウイルス感染拡大の影響で、小学校教室での実践が困難となった。 そこで、2020年度は実践方法を変更し、小学校にウィークリー・オンラインクイズを発行し、その中にクイズ・プレゼンターとしてSoftbank Robotics NAOを登場させ、5問前後からなるクイズセットの中の1問を、人と掛け合いする映像として導入した。クイズ解答者はNAOと直接対話できないが、NAOが解答者に話しかける映像である。NAOは出題者であり、背後の対話者はNAOからクイズを聞き出す。なお、このNAOは同小学校で6年間ほどにわたりマスコットとして親しまれていた。対話は、説明型、寸劇型、漫才型に分類された。 6ヶ月にわたるクイズセットの感想・コメントの集計と表現分析から次のことが知られた。解答返信数は最初の1ヶ月間で急下降したが、全校の10%前後の人数に収束した。はじめは難易度や楽しさについての一般的な感想の語が圧倒的だったが、クイズの具体的内容に関するコメントの割合が増加した。これは児童のクイズ内容に関する関心の高まりを示唆する。ロボットについては、NAOを唯一性のある固有の存在として話しかけるものが、一般的なロボット映像として表現するものを大きく上回った。教室では教師と児童の間でクイズ提示のコミュニケーションが起きるが、オンラインクイズでは出題者の存在感は得られにくい。プレゼンターとしてのロボットが、児童から出題者への情意を媒介するものでもあることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初はVstone製コミュニケーションロボットのSotaを用いて自然言語処理の深層学習モデルの活用を進め、学級での児童とのインタラクションを進める予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大により、学校でも臨時休校、分散登校、校舎内の徹底的な消毒、オンライン学習の推進などが行われ、各種行事の規模縮小、行事での来賓や保護者参加の制限など、外部者の介入は困難になった。また、他県への行き来も控える必要が生じてきた。このような社会的状況のため、2020年度は代替的な措置として業績概要に示すようなウイークリー・オンラインクイズを制作し、オンラインクイズにロボットのプレゼンターを加え、持続的な固有性を持つようなクイズ内容、話しかたの構成を試みた。児童からの発話に答えるような双方向性には欠けるので予定外であるが、この制限がもたらすものを検討する機会とした。当初は、学級の活動の進行とともにコーパスが変化し、それに連れて会話内容が遷移するモデルが可能であるかどうかを検討する予定であったが、特定の学級から言語資源を収集することができず、クイズプレゼンテーションとして自由会話ではなくシナリオを持った会話を扱った。シナリオの情報上の目的は、ある程度のヒントを与えたり、関連事項を伝えるとともにクイズを出すという情報的なものであるが、回答児童のコメントを分析すると、むしろ児童の情意に訴え、ロボットに対する情意的な要素の高いレスポンスが見出されたことは興味深い。オンラインクイズの提供方法が、保護者へのメールでクイズコンテンツへのURLリンクを提供する形であり児童に直接届かないが、小学校の授業や行事との共存性を検討しつつ長期間のプロジェクトとして継続したい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、小学校児童を対象として、児童自身の言語活動を資源とし、機械との言語活動により人と知能機械との共生関係へのより良いあり方を探るものである。新型コロナ感染拡大は終息の兆しを見せず本研究の当初予定にとっては深刻な状況である。クイズプレゼンターでは、音声ではシナリオをもつ対話を提示する漫才語り的形式であり、映像ではロボットのみを提示することで、ロボットが視聴者に語りかけるような表現形態である。これまでは話の内容を進める問い合わせ型発話と返答の組み合わせで構成してきたが、今後は交感型発話と反応を組み込んでいく。交感型発話は、会話相手の交感的発話に対して、交感型発話の集合から選択して返答する。これを問い合わせ型発話の間に挟んで発話させることが考えられる。ここでの情意的発話は、人間とコミュニケーションをとる事における前向きな気分についてのものを想定している。交感的発話と問い合わせ型発話の識別は話される言葉の類別によると仮定し、自然言語処理による判別モデルを検討する。以上の会話のバランスを統合するものを言語活動的“主体”としてモデル化する。しかしここでは前もってプログラムせず、児童との交流の分析を重点に置き、そこから検討を起こす事にしたい。また、感染拡大が落ち着く状況にあれば児童との直接会話の機会を導入したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大のため初期の研究計画を実行することができなくなり、同時に講義等のオンライン化対応や新規の大学業務増大で研究時間の確保が困難になった。このため、次年度使用が生じた。ロボットの修理費、音声認識クラウド使用料、論文英文校正の費用などに使用する予定である。
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