本研究は、日本と米国の世界史教師の教室での営みの比較・考察を通して、市民性を育成する世界史教育を解明し、それに基づく提案を行うことで、日本の世界史教育の改革に貢献することをねらいとしている。本研究は、国際的な比較研究としての意義と、教室を基盤とした複数ケース・スタディによる実証的研究としての意義がある。 本年度は、研究の総括を進めるため、個々のケース・スタディについて再整理を行った。昨年度の研究の中で、本研究がこれまでに行なってきた日米の教師の個々のケース・スタディをどのように総括するかの視点の方向性を確認し、その中で、高等学校の教育課程が2022年度より大きく変化し「歴史総合」「日本史探究」「世界史総合」という新科目として整理されたことを踏まえ、新課程の歴史領域科目に共通する改善・充実の要点を総括の視点の一つとすることとした。そこで、本研究が分析してきた「世界史」の事例を、学習のまとまりとしての「単元」で構成することが高等学校における「主体的・対話的で深い学び」を進めていくとともに、単元における課題の設定が生徒の学習レリバンスにも関連することを指摘するとともに、「単元の構成」という視点でケース・スタディを整理し、その1つを論考として発表した。具体的には、ラテンアメリカの革命を扱った教師の事例が、全9時間の授業を通した過去の複数の革命の学習により、生徒に「何が革命を導くのか」という概念を獲得させ、現代の考察に応用し、現代の不正義について考察する教室の学びが創造され、世界史という他国の過去の出来事の学習が現代の不正義を認識する力の育成へとつながっていることを考察した。
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