研究課題/領域番号 |
19K02831
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
江間 史明 山形大学, 大学院教育実践研究科, 教授 (20232978)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 教育学 / 社会科教育 / ワークショップ型授業 / 中核概念 / 対話スキル / カリキュラム / 多学年 |
研究実績の概要 |
2020年度の研究実績は、下記の3点である。 第一に、開発した単元を学んだ生徒(中学2年生)に対して、社会科で学んだ中核概念と社会科で大事にする「考え方」についてのアンケート調査を実施した(2020年8月、回答28名)。2019年度に中学1年で学んだ24単元のうち、ベロモンテダム建設問題と西ノ前遺跡の土偶の仮説づくりの2つの開発単元は、印象に残る単元の上位3つに入っていた。説得と探究の対話スキルを位置づけた単元である。 新型コロナウイルスの影響で、単元実施から半年以上たったアンケートであったが、「持続可能性」といった中核概念や「多角的な見方」という社会科に本質的な考え方を単元の具体的な内容とあわせて記述できていた。特殊的な文脈で具体的なタスクについて深く自我関与して学ぶことが、汎用的な資質・能力の育成につながることが示唆された。 第二に、小5社会で「水産業を経済的に考える」の単元を開発した。工業学習の単元を先行させて「分業、交換」の概念を学んだあと、水産業で「魚市場」の働きに焦点をあてた学習を行った。魚市場を分業や価格形成から捉える子どもの思考が見られ、経済概念を使いながら理解を深めていた。中核概念と特定の事実との関係については、アメリカの社会科カリキュラム研究者のヒルダ・タバのカリキュラム論をもとに検討を進めている。 また、2019年度に開発したベロモンテダム建設問題(中1地理)については、日本社会科教育学会第70回全国研究大会(筑波大学)で成果発表した。 第三に、先進校のカリキュラム調査については、長野県諏訪市立高島小と茅野市のわかば保育園で実施したのにとどまった。これらの調査では、子どもが中核概念を直感的に把握し、それを使いながら精緻で構造的な理解に進むという「概念形成」のシークエンスについてのエピソードのデータなどを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年度は、新型コロナウイルス感染症の拡大により、次の3点で研究に遅れが生じた。 第一に、単元開発について授業を実施できなかった(特に中学校で予定していた部分)。これは、学校の休校措置とそれに伴う教育課程の変更、学校再開後も対話などのワークショップ的な活動の実施が授業で制約を受けたことによる。 第二に、研究成果について、オンライン上での研究打合せにとどまり、成果を検討する研究会を開催できなかった。 第三に、学校カリキュラム調査を予定通り実施できなかった。これは、新型コロナ感染症の拡大により、県外者の調査を受け入れないなどの措置を調査を予定していた学校側がとったためである。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度(最終年度)は、次の4点について研究を進める。 第一に、中核概念による学習者の思考の構造化についての研究を進める。ヒルダ・タバの社会科カリキュラム論の検討をさらに進め、これまでの開発単元をもとに、概念や基礎観念による多学年にわたる社会科内容編成の試案を作成する。 第二に、中核概念を発展させるような「特定の事実」の事例を集めて、社会科における汎用的な資質・能力につながる「指導文脈集」を構成する。具体的には、持続可能性や相互依存などの中核概念について、説得、熟考、探究、交渉の4つの対話スキルを位置づけた問題状況を扱う4つの単元を開発することを試みる。 第三に、上記の単元及びこれまでに開発した単元を学習してきた小学6年、中学2年、中学3年の児童生徒に対して、社会科で学んだ中核概念と社会科で大事にする「考え方」についてのアンケートを実施する。児童生徒が、中核概念や社会科で本質的な考え方をどのように働かせて構造化しているかについて明らかにすることを目的とする。2020年度のアンケート結果との比較を行う。 第四に、学校カリキュラム調査と研究のまとめについてである。新型コロナ感染症の状況をみながら、学校調査については、「質の高い知識」の育成と資質・能力ベイスのカリキュラム開発を進める先進校として、富山市立堀川小学校と岡谷市立神明小学校の実践を引き続き、調査する。研究成果のまとめについては、全国社会科教育学会(10月、広島大学)と日本社会科教育学会(11月、福島大学)の研究大会で成果発表を行う。成果を査読付きの研究誌に投稿する。 年度末の3月には、本研究の到達点と課題を明らかにするための研究会を、山形大で開催する。猪瀬武則日本体育大学教授ほかを招請する。新型コロナウイルス感染症の状況によっては、オンライン開催とする。研究会の内容を中心に科研費報告集を刊行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、連携している学校の休校措置やそれに伴う教育課程の変更、学校再開後も対話などのワークショップ的活動を授業で制約されたため、社会科の単元やカリキュラムの開発を予定通り進められなかった。学校カリキュラム調査は、予定していた学校において感染症対策のため訪問が制限され、予定通り実施できなかった。オンライン上での研究打合せにとどまり、研究成果を検討する研究会を開催できなかった。 (使用計画)2021年度(最終年度)は、新型コロナウイルスの感染状況をみながら、「今後の研究の推進方策」で述べた点を実施するのに使用する。本テーマの研究を立案した時点と大きく状況が変わっているため、確実に研究成果として示せる部分を優先して取り組むこととする。
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