研究課題/領域番号 |
19K02831
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
江間 史明 山形大学, 大学院教育実践研究科, 教授 (20232978)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 教育学 / 社会科教育 / ワークショップ型授業 / 中核概念 / 対話スキル / カリキュラム / 多学年 |
研究実績の概要 |
2021年度の研究実績は、下記の4点である。 (1)アメリカの社会科研究者ヒルダ・タバのカリキュラム開発論をもとに開発単元を分析することで、「中核概念」を発展させるための「特定の事実」の機能について明らかにできた。開発・分析した単元は、①「マンホールのふしぎ」(小4)、②「ベロモンテダム建設問題」(中1地理)、③「家康・家光・綱吉の政治の歴史的意義ランキング」(中2歴史)である。これらの単元では、対話スキルと「特定の事実」を位置づけた学習活動の中で、学習者の思考が「中核概念」に伸びていることを明らかにできた。①と②は、「中核概念による構造化と社会科のカリキュラム開発と授業づくり」(研究成果の図書1件目)、①と③は、「中核概念による構造化とワークショップ型授業‐タバ社会科の検討を通して‐」(学会発表の1件目)にまとめた。 (2)小学校・中学校・高等学校におけるこれまでの開発単元について、実践者との共同研究としてまとめた。「教科の本質」に迫る社会科の授業(研究成果の図書2件目)である。ここでは、小3:スーパーマーケット(稀少性と選択)、小5:水産業(分業と交換)、中2歴史:江戸幕府の政治(国際関係と政府の役割)、高校公民:平塚雷鳥と与謝野晶子(共生)について報告し、江間が各実践にコメントした。 (3)児童生徒への中学概念と考え方に関するアンケートは、中学3年生に実施し、2020年のアンケートと比較した。中学3年間というスパンで、生徒が学んだ対象や経験の意味が、後から学んだ内容の中で位置づけ直されたり意味を書き直されることが示唆された。 (4)学校調査は、わかば保育園(長野県茅野市)と富山市立堀川小学校で実施した。ワークショップ型授業の活動枠と教師の明示的指導について有益なデータを得られた。11月に日本体育大学の猪瀬武則教授を招請した研究会を開催し、本研究の到達点と課題を明らかにできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2021年度は、新型コロナウイルス感染症の第4波、第5波、第6波により、断続的にしか研究を進められず、次の2点で研究に遅れた生じた。 第一に、単元開発について、予定していた「交渉」「熟考」の対話スキルを位置づけた単元の実験授業を実施できなかった。これは、対話などのワークショップ型授業の実施が、感染対策から制約を受けたり、研究者が教室に入れなかったりなど、通常の研究活動が実施できなかったことによる。 第二に、そのため、開発単元についてのデータが十分に得られず、多学年にわたる社会内容編成の試案を作成することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、ヒルダ・タバの社会科カリキュラム開発論をもとに、「中核概念」とそれを発展させるための「特定の事実」、さらにその事実を用いる「対話スキル」という3つを連動して捉えるカリキュラムの視野が開かれている。これをもとに、2022年度(最終年度)は、次の4点について研究を進める。 (1)研究が遅れていた「交渉」「熟考」の対話スキルについて、環境条約交渉や大正デモクラシーを素材に内容研究を行い、中核概念を析出して単元を開発・実験授業を実施する。開発にあたっては、タバ社会科におけるsocial sensitivity の資質能力を検討に加える。 (2)小6社会科を対象として、中核概念による年間のカリキュラムマネジメントと単元開発を行う。中核概念とは、「公私」「政策」「公正」「民主制」である。小6はじめの政治学習でこれらの中核概念を学び、歴史学習と国際理解学習でそれを学習者が繰り返し用いる場面を開発する。子どもがそれらの中核概念をもとにどのように理解を構造化するかについては、子どものふり返りの表現とアンケートから検討する。 (3)中核概念は、多学年間の内容を織り合わせる機能を持つ。これまでの開発単元をもとに、中核概念による多学年にわたる社会科の内容編成試案を作成する。これを2017年版の学習指導要領の内容構成と比較し、現行カリキュラムの内容の過積載(オーバーロード)について解決方向を示すポイントを析出する。 (4)学校調査と研究のまとめは次のように進める。学校調査は、富山市立堀川小学校の実践を引き続き調査する。特に、学習者が「教材の中核」と対決する局面の単元デザインを検討する。研究成果は、2022年度の全国社会科教育学会と日本社会科教育学会の研究大会で発表し、学会誌に投稿する。年度末に、猪瀬武則教授を引き続き招請して研究会を山形大で開催し、その内容を中心に科研費報告集を刊行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)新型コロナウイルス感染症の感染拡大が断続的に続き、学校での授業観察・記録や単元開発が予定通り実施できなかったため、そのための経費を使用しなかった。学校調査において日程や活動に制約があったり、学会開催がオンラインとなったため、予定していた旅費などの経費を使用しなかった。 (使用計画)2022年度(最終年度)は、新型コロナウイルスの感染状況を見ながら、「今後の研究方策」で述べた点を実施するのに使用する。本テーマの研究を立案した時点と大きく状況が変わっているため、研究年度を当初計画より1年間延長し、確実に研究成果として示せる部分を優先して取り組むこととする。
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