研究課題/領域番号 |
19K02834
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
李 修京 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (10336927)
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研究分担者 |
権 五定 東京学芸大学, 教育学部, 研究員 (30288641)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 相近(convergence) / 互恵(reciprocity) / 多文化共生 / 帰属―離脱症候群 / 参政権 / 排他(構造) / multiculturalism / 歩み寄り |
研究実績の概要 |
2020年度は、主に在日コリアンの実践的な「相近」・共生努力の実態と、在日コリアン学校の教育活動における「相近」・共生の内容を把握するために、①在日コリアン社会のリーダーとして活動してきた方達とのインタビュー、②『民団新聞』等在日コリアンの広報誌に掲載されている在日コリアンの生活・活動内容の精査、③在日コリアン学校「金剛学園」のカリキュラム、年間・月間・週間教育活動の分析を行った。その結果、次のようなことを明らかにすることができた。1)「相近」・共生努力は主に、「民団」のような組織を中心に行われているが、個人レベルの活動が増えている傾向が見られる。特に、ハルモニ(祖母)・オモニ(母親)の会といった女性の活動が目立っている。2)「相近」・共生努力は、主に地域社会における日常生活・祭り・行事などと関連した事柄を中心に行われている。国籍や民族の違いを意識せず、「地域住民」として、共に参加し、楽しみ、問題解決に協力し合っている。3)在日コリアンの学校は、従来からの「韓国人としてのアイデンティティ」ではなく、「在日としてのアイデンティティ」の育成を目指し、地域の日本人学校との連携活動が増えつつある。教育内容から排他的な要素は減る傾向が見られる。4)日本の社会・制度の中に入り、「相近」・共生の道を模索する「民団系」の在日コリアンが地方参政権の獲得に積極的であるのに対して、「総連系」は参政権の獲得に反対しており、日本の社会・制度に対して排他的な姿勢・立場を取っている。ただ、排他的姿勢・立場の維持と「相近」・共生の努力との前後因果的関係についてはまだ明言できない。 なお、本研究を深めるために、2020年度中に、「韓日多文化共生の地平」(2020.12.4)・「民主的多文化共生社会の実現を考える:“共生”の市民意識は成長したのか」(2021.1.29)などの学術大会を開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの研究で新たな研究課題が表面化したため、進捗状況とともに述べておきたい。 在日コリアンの「民団系」を中心に行われている「相近」・共生努力は日本の社会・制度の中に入ることを前提にしており、「総連系」との違いが明確になってきている。(日本の)多文化共生の相手集団の内部から共生をめぐって分裂と葛藤が起こっている。その上、「民団系」の在日コリアンと韓国との関係の変化が表面化してきた。韓国では以前から「民族」は最高の善であり続けてきたが、最近、「民族」はさらにすべての価値判断の基準として機能するようになり、「民族」に反するものは「清算」の対象にしている。そして、「反民族」の源は日本であり、「親日」=清算すべき惡、「反日」=善という公式が固まっている。日本社会において「相近」・共生を求める「民団」は当然「反民族」のカテゴリーに入るしかなく、反対に、「総連」や「朝鮮学校」に対しては「理解」を示す声が大きくなりつつある。 今日、韓国の基本的政治(国際関係)の枠組みは反共から反日に代わっているとも言える。こうした枠組みの中で、在日コリアン(特に「民団系」)というマイノリティはさらに「帰属―離脱症候群」に悩まされ、「選択制限情況」に置かれざるを得ない。そこで、次のような新たな研究課題が浮かび上がる。①日韓両国の軋轢の中、在日コリアンの「相近」・共生の努力はこれまで通り続けられるか?②韓国における「反日」の枠組みは、一時的な限られた集団の要求なのか?(地域・世代・階層などによってその要求は異なっているのか?) ③共生の相手である韓国・在日コリアン社会の内部の排他構造の変化・(差別などを含めた)階層構造の硬直化・民主主義の原理とモラルの揺れが日本社会における多文化共生にどう影響するか?
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては、1)2020年はCOVID-19のために「相近」・共生の実践的努力の実体の把握が不十分であった。できれば今年度も引き続き、現場に直接赴いて、参加観察・インタビューを通して実際行われている実践努力を把握し、その努力の結果生じている変化について聞き取りを実施したいと計画している。 2)「相近」・共生努力と排他関係の変化との前後因果関係を明らかにするために、在日コリアンの民族教育・生活次元における排他関係の変化に詳しい在日コリアンのコミュニティ・リーダーとのインタビュー、そのリーダーたちの周りの方たちを交えた研究会を計画している。参加予定の方たちが高齢のために、COVID-19が収まらない場合、電話によるインタビュー方式に変えざるを得ない。 3)本研究期間中の研究結果をまとめ、それに基づいた「多文化共生とマイノリティの役割」に関する一般化を導きたい。理論構成の作業なので、最近の多文化共生やマイノリティ研究の成果と照合する必要がある。 4)新たに浮かび上がった研究課題-「共生相手の集団内部における分裂と葛藤・非民主的階層構造(反共生的要素)と多文化共生社会の構築課題」について、学術的価値・研究の可能性など吟味・検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍における非常事態宣言がなされたため、学校訪問などの出張ができていない。そのため、今年、可能であれば、大阪の民族学級(日本の公立学校が運営)参与観察および関西の韓国系学校の教員インタビューのための出張に使う予定である。
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