研究課題/領域番号 |
19K02835
|
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
加藤 圭司 横浜国立大学, 教育学部, 教授 (00224501)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 科学を学ぶ意義 / 学習のレリバンス / 横断的調査 / 理科の好き嫌い |
研究実績の概要 |
研究初年度である2019年度は、Miller,J.D.et.al.(1997)の3要素、ならびに、本田(2004)の「学習のレリバンス」の2要素を踏まえながら、改めて先行研究を精査して「理科を学ぶ意義」の要素・指標について精査した。また、研究の計画段階からこれら2つの先行研究に基づいて作成していた質問紙を用いて調査を行い、児童・生徒の「科学を学ぶ意義」の実態について、その特徴や特性を把握することを目指した。 現在は、まだその分析途上であるが、「科学を学ぶ意義」の加齢や発達に伴う変容については、理科を学ぶことに対する「好き」と「好きではない」のそれぞれの意識を持つ子どもの比較・検討から、その特徴の概略が明らかになってきている。 「理科を学ぶことが好き」群では、小学校4年生前後ですでに科学に関する事象や活動に対する興味をおよそ認識できおり、その後、小6から中1において、理科学習で得た知識を生活に役立てることや、科学的な探究の方法、科学的な知識や概念を獲得することの重要性を認識するようになること。さらに、中3前後になると、科学が我々の生活や社会、さらに地球環境等に影響を及ぼすことを理解できるという意義を認識するようになること等、年齢の変化による「科学を学ぶ意義」の認識の複合化・多層化が生じる実態が明らかになっている。一方、「理科を学ぶことが好きでない」群では、自然事象や理科学習に対する興味が小4前後で,理科学習の有用性に関する肯定的認識が中1前後でそれぞれピークを迎える点はおよそ共通する傾向であるが、以降はそれら肯定的認識が失われ、自分が理科(科学)に積極的に関わらなくてもその恩恵を享受できればよい、という認識に限定されていく傾向が見られた。 あくまでも現段階の結果であり特徴であるが、加齢や発達によるこの意義の認識の変容の一端が明らかになったと言えるように思われる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究目的の1つ目に掲げた年齢横断的実態調査については、一定数のサンプルに対する調査結果を収集できているが、まだ、統計的な処理に適う数にまで到達できていないため調査を継続する必要がある。しかし、3月以降、学校が全面的な休業状態に入ってしまったため、追加調査が出来ない状況になっている。 6月以降、順次学校も再開されているが、分散登校等で限られた時間の中で遅れた学習を取り戻すことが最大の目的である小・中・高等学校に、時間を割いて取り組む実態調査を行うことは容易ではない。調査実施の遅れはやむを得ないと考え、2つ目の研究目的である「科学を学ぶ意義」の認識を高めるために必要な理科授業のデザイン原則の抽出に向けた取り組みを並行して行うことにしたい。 言うまでもなくこのデザイン原則の抽出は、データをもとに行うことが最適であるが、さらに先行研究などからのその要素の抽出可能性を検討すること。また、授業実践者への聞き取りからもその要素を定めることが出来ないかを検討することなど、多面的に検討している状況である。今後の学校の再開ならびに教育活動の進展状況を見据えながら、研究計画を柔軟に考え進めていくことが必要ととらえている。
|
今後の研究の推進方策 |
実態調査研究から、児童・生徒は、加齢・発達に応じて「科学を学ぶ意義」を認識するようになり、それが理科の学習に対する内発的な動機付けを高め、結果として学習意欲を持続させることに繋がることが見えてきた。そして、「科学を学ぶ意義」を複合的・多層的に認識することによって、個人として科学との関係性を築くことになり、それが、生涯にわたって良好な状態を維持していくことへと繋がっていくと考えられる。 児童・生徒の発達に応じた「科学を学ぶ意義」の認識の望ましい変容を促すための授業デザインの原則については、現時点でという条件付きにはなるが、以下の視点から考えていくことが有用であると判断している。すなわち、理科学習初期の小学生(児童)に対しては、学習内容の有用性よりも学習そのものの面白さ・楽しさ、自然事象の不思議さに力点をおいた学習が有意味ではないか。その後の段階においては、年齢・発達の進行に伴い徐々に社会に共有される科学の文化的側面に対する理解や、自身が社会を構成する一員であることの自覚を促すような学習を重視する学習が有意味ではないか、などである。このような授業デザインへと移行していくためのデザイン原則が、必要であると考えている。 今後は、このような見通しのもとに、さらなる実態調査とその分析を行い、授業デザインの原則の抽出と確定を目指したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
児童・生徒に対する質問紙を用いた実態調査が、当初の予定まで実施できなかったことで、データ入力や分析における補助として計上していた謝金を執行することが出来なかったことが、まず最初にあげるべき理由である。予定していた調査は、2学期末や年度末の時期に実施・対応してもらえる予定であったが、コロナウイルス感染拡大を含む諸般の事情や都合等から、それらがすべて実施できなくなったことが大きい。 一方で、児童・生徒の「科学を学ぶ意義」の認識実態や授業デザイン原則の抽出については、多面的なアプローチを試みており、ここまでの成果の論文化にも着手している状況であるので、次年度への繰越金については、年次の使用計画に加えてその成果発表の原資に充当していくことを考えている。
|