研究課題/領域番号 |
19K02835
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
加藤 圭司 横浜国立大学, 教育学部, 教授 (00224501)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 科学を学ぶ意義 / 学習のレリバンス / 理科授業デザイン / 学習文脈 / 未解決な社会的問題 / 知識統合 |
研究実績の概要 |
2年次目である2020年度は、前年度から実施している児童生徒の「科学を学ぶ意義」の認識に関する実態調査結果の分析に加え、学習者の「科学を学ぶ意義」の認識を高めることに寄与すると考えられる理科の授業デザインについて、いくつかの仮説的な考え方(≒理科授業のデザイン原則にあたるもの)を打ち立てると共に、その授業を試行的に実践して、効果を検証することから授業デザインに対する考え方の妥当性を検討した。 この「科学を学ぶ意義」の認識を高める授業デザインについての考え方であるが、2つほど例をあげる。1つ目は、本田(2004)の「学習のレリバンス」における「即自的レリバンス」から「職業的・市民的レリバンス」への移行を促す学習文脈の設定である。この考え方に則った授業デザインでは、自己中心性を軸に自然事象を個人的な文脈から捉えがちな学習者に、個人が所属する社会という視点からとらえ直しを求める授業を展開すること、すなわち、認識の脱中心化を促す文脈を取り入れることで、「科学を学ぶ意義」や有用性に気付くことを目指したものである。この授業デザインでは、文脈設定として科学・技術を背景とした未解決な社会的諸問題(Socio-scientific Issues)の授業への導入が試みられている点に特徴がある。 2つ目は、Scardamalia & Bereiter(2014)らが指摘した、獲得した知識等を自ら「俯瞰する行為」に着目して、関連する知識を結びつけたり、そこから自覚的に知識を構築していく中に、科学の本質的な理解と「科学を学ぶ意義」の獲得を目指したものである。この授業デザインでは、科学的知識の有り様を理解が「科学を学ぶ意義」の獲得に繋がることを期待する点にその特徴がある。 試行された理科授業は、「科学を学ぶ意義」の認識を高める理科授業のデザイン原則の検討に資するものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度については、学校等で実施する調査が、我々研究者が学校に入ることのリスクと、調査等によって授業時間が圧迫されることに対するリスクの観点から、予想以上に実施することが困難であった。一方で、学校がタブレットなどによる調査が出来る環境が整ってきていることから、次年度は調査方法を紙ではなく電子的なかたちに変えることで実施できる可能性があると考えている。この実態調査については、学校側の態勢を見定めつつ実施の可能性を検討していく。 一方で、「科学を学ぶ意義」の認識を高める理科授業の確立に向けた授業のデザイン原則の抽出については、授業実践者との授業構築に関する具体的な協議がリモート環境下でも実施出来たことから、いくつかの授業における生徒のデータを収集することが出来た。この「理科の授業デザイン原則」の抽出に向けては、引き続き授業構築と実践を進め、デザイン原則の策定に向けた検討に結び付けていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
現状では、2021年度においても児童生徒の「科学を学ぶ意義」の実態調査が、小・中学校でどの程度まで実施できるか不透明な状態である。このことから、実態把握については、可能な範囲でデータを追加する方向で努力することとして、データ収集が十分に出来ない場合は、これまでに収集できた調査データから分析し考察をまとめていくことにしていきたい。すでに今年度までにおいて、児童生徒は、年齢が上がるにつれて「科学を学ぶ意義」を複合的・多層的に認識することによって、個人として科学との関係性を築くことができ、それが、生涯にわたって科学との良好な状態を維持していくことに繋がっていく可能性が示唆されている。このような傾向について、改めて検討と確認を行いつつ傾向や特徴の確定を目指していく。 もう一つの目的である「科学を学ぶ意義」を高める理科の授業デザインの原則の抽出・策定に関しては、これまで参照してきた理論に沿って構築した授業に加え、Deci,E.L.et.al.(2000)の動機づけに関わる自己決定理論の視点から児童生徒の実態を評価することを検討するなど、より幅広く,かつ確度の高い授業のあり方の模索をすすめ、授業デザインの原則を定められるようにしていく予定である。 自己決定理論は、動機づけを内発-外発の二項対立で捉えるのではなく、学び手の自律性の観点から連続的に捉えようとする考え方であり、「科学を学ぶ意義」の認識の高まりを捉えることにおいて有用な指標となると考えられる。どのような学習場面や課題設定などが、児童生徒の自律性を高めることに繋がるかを分析することで、理科授業のデザイン原則策定に役立てていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、当初計画していた出張,特に学会や研究会における研究発表等がすべてオンラインになったこと、また、学校現場に入り授業に立ち会って行う調査が、原則として認められなかったことなどから、予定していた旅費がほとんど執行できず残額として残る結果となった。 また、謝金の執行においても、学生・院生の授業がオンラインになり、大学に出校して作業を行ってもらうことが出来なかったったこと、また、授業提供者との協議などについても、相手方にオンライン環境が十分整備できていない状況があったことから、十分な業務依頼や研究内容の協議が出来なかった。 旅費については、引き続き県外への出張に対する制限、また、学会のオンライン開催などが予想されることから、他の費目での執行を計画する予定である。また、学生・院生に対する業務依頼や授業実践者との協議については、今年度オンラインベースでの方法に一定の見通しが持てたので、次年度はオンラインで作業を進める予定である。
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