研究課題/領域番号 |
19K02835
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
加藤 圭司 横浜国立大学, 教育学部, 教授 (00224501)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 科学を学ぶ意義 / 学習のレリバンス / 理科授業デザイン / 俯瞰する行為 / 知識統合 / 科学の本質的な理解 |
研究実績の概要 |
3年次である2021年度は、コロナ禍における学校での実態調査の実施を継続的に依頼するとともに、本研究の中核である学習者の「科学を学ぶ意義」の認識を高まりに寄与する理科授業のデザイン原則について、これまでの調査結果と前年度に仮説的に設定した2つの考え方(視点)をもとに、具体化することを試みた。 現段階までに抽出・設定できたのは、2項目4要素である。1項目目は、マクロな視点としてのカリキュラム構築に関わる要素である。本田(2004)の「学習のレリバンス」概念における「即自的レリバンス」から「職業的・市民的レリバンス」への移行を基軸として、これを促進させる要素として3つが抽出された。1つ目は、学習者の即自的な視点からの授業の始動を前提に、自然事象に対する興味・関心の喚起に関わる「不思議な自然事象,日常生活の中に潜む自然事象への着目」を抽出した。そして、その即自的な視点が徐々に客観性ある視点に変わっていくために、理科学習が汎用的な問題解決の能力の獲得に資することに気づくいていく過程として、「科学的な探究の過程の確保」を抽出した。さらに、人間にとっての視点を社会や将来の視点に繋ぐことを意図して、「キャリアや科学技術、生命尊重や環境保全等への着目」を抽出した。これらが、マクロなカリキュラム的視点における3要素である。 2項目目は、理科で扱われる学問分野である「科学」に対する理解の獲得に資するデザイン原則である。これは、科学的な探究の過程の中に位置づくミクロな視点と言えるもので、知識統合理論における「俯瞰する行為」を核として、科学の本質に気付いていく過程を確保することであり、「対話を通じた知識等の関連付けから、科学の本質的な理解に迫る過程を創る」を要素とした。 この2項目4要素の理科授業のデザイン原則の妥当性を検証していくことが、本研究の最終年に向けた課題と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍が継続する状況が続いた2021年度においては、実態調査を行うことが困難な状態が続いており、一定の規模での調査実施ができるかどうかは不透明な状況にある。完全な質問紙形式(選択肢のみ)での実態調査の実施では、科学を学ぶ意義の認識について、より深いところまでを探ることは困難であると思っており、調査総数に少なさが生じたとしても、得られた結果を分析することから、理科授業のデザイン原則の策定に結び付けていく方法を検討している。 一方で、「研究実績の概要」で述べたように、理科授業のデザイン原則の4要素を仮説的に抽出するところまでは、研究を進めることがてきている。最終年度にあたる次年度は、この4要素の妥当性を、限られた機会になるかもしれないが複数の単元の授業実践を通じて検証して、デザイン原則の確定に向けて考察していくことを考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2022年度については、仮説的に設定している理科授業のデザイン原則(2項目4要素)を実際の理科の授業実践を通じて検証していく手続きと、これらのデザイン原則を他の学習理論によって補強していく手続きの2つの方向から取り組み、研究全体を集約していく展開を考えている。 理科の授業実践を通じて理科授業のデザイン原則を検証していく手続きについては、コロナ禍が続く2022年度においても実施できるように、我々研究者が学校に入らない状態で、VTR等で授業実践を記録してもらう協力が得られる実践者を複数人確保している。授業実践にあたっては、リモート会議などを通じて研究者と実践者が検証すべきデザイン原則の具体化を検討するとともに、実践者によって行われた授業の記録(映像や音声、学習成果物など)の提供を受けて分析を進める予定である。デザイン原則の妥当性を検証するためには、より多くの分野や内容の授業においてその有効性が確認されることが必要であるが、コロナ禍における学校の授業実践に過度な負担をかけることはできない。このことから、実践可能な単元で授業づくりを進めることとし、最終的には一般化には及ばないとしても、事例の集積というかたちでその成果を明らかにできればと考えている。 もう一つの学習理論に関しては、前年度の報告において検討の視点としたDeci,E.L.et.al.(2000)の動機づけに関わる自己決定理論が、現時点では「科学を学ぶ意義」の育成要因として十分に検討できていないので、この視点を先のデザイン原則に照らして再検討する中で、要素の追加や修正に結び付けていくことを目指す。 以上、2つの方策をもって取り組み、本研究全体の総括とまとめを行うことが、2022年度の目標であり推進方策である。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に引き続いてではあるが、コロナ禍により当初計画していた出張、特に学会や研究会における研究発表等がすべてオンラインになったこと、また、学校現場に入って授業を記録したり調査用紙を配布したりする調査が、原則として認められなかったことなどから、予定していた旅費がほとんど執行できず残額となった。 また、謝金の執行においても、学生・院生の授業等が原則オンラインになり、大学に出校して作業を行ってもらうことが十分に出来なかったったこと、また、授業提供者との協議についても原則オンライン形式となり、研究内容の協議や授業実践の依頼がじゅうぶんに出来なかったことがあげられる。 旅費については、引き続き県外への出張に対する制限、また、学会のオンライン開催などが想定されることから、他の費目で執行することを計画する予定である。学生・院生に対する業務依頼や授業実践者との協議については、今年度以上にオンラインと対面での作業が実施できそうであるので、予算の執行が見込める状況である。
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