1年間の延長を申し出て取り組んだ4年次目の研究では、以下の2点について進めると共に、研究全体の総括を行うことを目指した。 1点目は、コロナ禍で十分に収集できなかった小・中学生に対する「科学を学ぶ意義」の認識に関する実態把握の補充調査である。本研究1年次目の報告でも一部述べたように、小学校高学年あたりから理科で学ぶ知識や技能は生活の中で活かされるものであり、役に立つものである、という「有用性」の認識を持つことができるようになることが分かっている。今年度の補充的調査では、この「有用性」の観点に関してより詳細に実態を把握することから、理科の授業デザインに対してフィードバックを得ることを目的とした。 2点目は、これまでの実態調査の結果と研究協力者に試行的に実践していただいた理科授業の成果の分析をもとに、児童・生徒が「科学を学ぶ意義」を獲得・変容させていくことに向けた、理科授業のデザイン原則をモデル的に打ち立てることであった。 本研究で措定した理科授業のデザイン原則として、本田(2004)で示された「学習のレリバンス」における「現在的レリバンス」から「将来的レリバンス」という時間軸と、「個人としての興味や日常生活における科学の実感」という個人的な視点から、「責任ある市民として科学に対する望ましい認識を創る必要性の感得」という第三者的・社会的な視点へという人称変化の軸の2つを見出すに至った。この2軸は、時間をその育成・変容の基盤軸と位置付けながら、個人としての人生の豊かさにつながる”実用的視点”や”教養的視点”に、社会の中の一市民という”社会的視点”を付加していくようなイメージであり、複合的で重層的な認識を創っていく理科授業のデザイン原則と言い換えられるように思われる。 今後は、本研究で導出できた理科授業のデザイン原則をもとに、具体的な授業が構築され成果の確認がなされる必要がある。
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