研究課題/領域番号 |
19K02848
|
研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
松岡 靖 京都女子大学, 発達教育学部, 教授 (10736648)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | メディア社会 / ソーシャルメディア / AI / 社会科教育 / 教材開発 |
研究実績の概要 |
2019年度(初年次)では,「ソーシャルメディアをはじめとする拡張するメディア社会の中で,新たなメディアリテラシーを社会科授業を通してどのようにして育成すべきか」といった問いに答えるため,「ソーシャルメディアが存在する社会構造を3観点(発信者・受信者・メディア)から明らかにすると共に,具体的なソーシャルメディアを事例にした教育内容を策定する」ことを所期の目的とした。 ソーシャルメディアが存在する社会構造の拡張に関しては,文献調査からメディアコミュニケーションにおけるコードとコンテクストへ影響を与えるものとして,今日のAI技術の進展であることを見出した。そして,その背景にはICT の技術的発展(ネットワーク環境,ビックデータ,CPU等の発展)があること,そして,AI の優位性として人間以上 にルールに沿ったデータ処理とデータに基づく合理的な判断軸を構築することに適していること等を明らかにした。しかし,あくまでもプログラムであり何のために判断するのか目的設定は 人間に依存していること,また,そうした目的を設定する設計者のバイアス(先入観や偏見) が入る可能性が高いこと,更に,人間の感覚や暗黙知といったことは言語化できないため AI が処理することは難しいといった課題があることを指摘した上で,拡張するメディア社会の構造変化とその影響についてまとめた。 また,ソーシャルメディアを事例にした教育内容に関しては,ソーシャルメディアの現状とその特徴について検討した上で,twitterを事例にした単元「わたしたちの法と社会~ソーシャルメディアの影響~」を研究協力者とともに開発した。ソーシャルメディアと法のあり方を問う本授業を2月に研究協力者に実践していただき,学習者の認知的変容からソーシャルメディアが存在する社会を法教育の視点から追究する教育内容の妥当性について現在検討している途上である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記に区分した理由は次のとおりである。 2019年度(初年次)における所期の目的は,次の2点の分けることができる。第1は,ソーシャルメディアが存在する社会構造を3観点(発信者・受信者・メディア)から明らかにすること,第2は,具体的なソーシャルメディアを事例にした教育内容を策定することである。 第1に関しては,現代的課題であるAI技術の進展について検討し,ソーシャルメディアが存在する社会構造をAI技術との関連から検討し,3観点の社会構造を再構成することができたことが成果として指摘できる。しかし,AI 技術によるフィルタリングによりソーシャルメディアから不必要なデータを除外させることで,必要なデータの早期把握,並びに推定を可能にしたシステム的検討に留まり,他の技術的・認知的影響に関しては更に継続した検討が必要であることが課題である。 第2に関しては,twitterを事例にした授業を開発したことは成果として指摘できる。しかし,学習者の認知的変容から教育内容の妥当性についての検討は不十分であり,また,他のソーシャルメディアに関する教育内容については十分に開発できていないことが課題である。 以上のように,2019年度(初年次)の所期の目的に照らして,成果としては,ある程度満足できるものであるが,課題も残されている。但し,2019年度(初年次)の目的は,次年度にわたって継続して検討することを計画していることから,進捗状況は「(2)おおむね順調に進展している」とした。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度(初年次)において残された課題に関して研究を継続して行うとともに,2020年度(2年次)における所期の目的は,「ソーシャルメディア社会の分析と教育内容の検討に基づき,ソーシャルメディアを対象にした社会科学習指導論理について明らかにする」ことである。 具体的には,ソーシャルメディアが存在する社会の構造を多面的・批判的に追究する場面とより良いソーシャルメディア社会の構築に向けて対案を構想する場面を,どのように位置づけるのかが,研究推進上の課題となる。この点に関して,これまでの構築型学習指導の研究成果について再検討すると共に,文献調査と先進地への現地調査に基づき,授業構成論理の明確化を図っていく。 また,授業構成に位置づく教材に関しては,学習者が実感を伴って追究できるようタブレット端末を活用し,研究協力者と共に疑似的にソーシャルメディアを活用させる教材について検討していく。この点に関しては,必要数のタブレット端末の整備と共に必要なアプリケーションを特定し,学習者が主体的に追究できる教材構成をあり方について明らかにしていく。 以上の授業構成と教材構成の手立てに基づき,ソーシャルメディア社会の学習指導論理について明らかにしていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用が生じた理由は,主には次の2点である。 第1は,人件費・謝金の項目に関して,授業実践が2020年2月であったことから,授業実践後のビデオ編集,ワークシート整理,アンケート集計等が未実施であるため,そのための人件費が使用されていないためである。 第2は,今回のコロナウィルスの影響により,2月,3月の出張が,出張自粛の都合上,キャンセルせざるを得なかったためである。 したがって,今後は,上記の内容に関して経費を使用するとともに,今年度計画しているタブレットPCの整備,資料用図書の購入,研究協力者との会合を定期的に持ち,着実な予算執行に努めたい。但し,旅費に関しては,コロナウィルスの影響が見通せない現状がある。したがって,状況が改善されれば,2020年後半から2021年前半にかけて先進地への視察を行うが,状況が難しい場合は,2022年度へ繰り越すことも検討せざるを得ない。
|