研究課題/領域番号 |
19K02883
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研究機関 | 上越教育大学 |
研究代表者 |
大前 敦巳 上越教育大学, 大学院学校教育研究科, 教授 (50262481)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 高等教育 / 歴史社会学 / 日仏比較 / 高等師範教育 / 首都圏 |
研究実績の概要 |
本年度は、日仏の戦前期における高等師範教育の拡大について、主に制度面での発展に着目し、その社会的特質を考察した。フランスでは、パリのユルム校を中心に、周辺のパリ近郊に設立された高等師範学校の拡大過程をたどり、男性から女性へ、上中流階級から他の階級へ、古典語からフランス語へ、文科・理科に加えて技術教育や体育教育の実用的な学問分野へといった変容がみられることを明らかにした。日本でも、東京の高等師範学校を起点に、女子高等師範や地方の高等師範へと拡張発展を遂げたが、国家主導による拡大が限定的なものにとどまり、中等教員無試験検定資格が許可された私立学校の力に依拠して大きく発展した点で異なる特色がみられる。日仏ともに中央集権国家における首都を中心に高等師範教育が拡大したが、フランスでは修道院を起源とする全寮制の教育から,共和制の脱宗教的(ライック)な近代学校制度に移行することにより,宗教教育から引き離した国家の庇護による手厚いエリート主義教育を堅持してきた。一方、日本では帝国大学に対して傍系の社会的位置にありながら、東京の都市発展に伴う人々の教育要求の増大に応える形で高等師範教育の拡大が進展した可能性を考察した。 上記の研究成果は、国内学会で日本語とフランス語による口頭発表を行い、一部の内容を大学紀要に論文を執筆し、フランスで同様の関心をもつ研究者との意見交換を行った。また、本研究成果から示唆を得た日仏の現代にいたる教員養成に関わる論考も執筆し、特にフランスの伝統的な職人的技能を表すメチエと、最近のグローバルな観点から提唱される汎用的能力としてのコンピテンシーとの関係に着目して議論を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、日仏の高等師範教育に関わる文献を可能な限り網羅的に収集し、それらを読み解きながら主に制度面の拡大過程に関する歴史の概観を把握し、その社会的特質を比較考察する手がかりを得ることができた。それに基づいて、フランスの高等師範教育の拡大過程に関する論文を執筆することはできたが、日本のケースについての論考は今後の課題に残された。また、フランス人研究者と交流する中で、教育史の視点から高等師範教育を捉えるだけでなく、都市史の視点を交差させた歴史社会学的な研究を企てる新たな方向性を見出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、高等師範教育の拡大に伴って新規参入した教員と学生の階層・地域移動に関する研究を行い、まずフランスのセーヴルとフォントネー=オ=ローズに設立された女子高等師範学校と、日本の東京女子高等師範学校に着目し、主に卒業生名簿と同窓会誌に基づいた個票ベースの経歴に関するデータ収集・分析を行う。また、外国人留学生の受け入れや、当時の植民地であった外地への勤務動向なども合わせて分析する。さらに、パリと東京の首都における都市の発展過程に着目し、都市史と交差させた高等師範教育の拡大過程、特に日本においては私立学校の拡大に関する分析と考察を企てる。 上記のデータ収集に関しては、当該年度の新型コロナウィルス感染拡大に伴って、図書館の使用が制限されるなどの問題があるが、オンライン上でアクセスや借受が可能な資料から順次入手し、情報漏洩が起こらないようパソコン上の管理を万全にした上でデータベースを構築する。学会発表などの機会も制限される可能性があるが、日仏両語で研究成果を発表できるよう準備を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
資料収集のための海外旅費(フランス9日間, 350000円)を予定していたが、次年度にフランス人研究者を日本に招聘して研究課題に関する学会シンポジウムと講演会を開催する計画に変更したため。前年度の使用残額と同額を、次年度にフランス人研究者招聘のための海外旅費として使用する計画である。
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