本研究は、アメリカ合衆国において近年急速に拡大している公立大学の授業料無償化政策の特質と課題を検討することを目的としている。2015年1月、当時のバラク・オバマ大統領は公立2年制大学の授業料無償化の推進を提案した。これを受けて、各州では授業料無償化の取り組みが広がっている。ただし、これは授業料そのものを徴収しないのではなく、授業料から連邦等の給付奨学金を差し引き、最後に残った額を州政府が給付する「ラストダラー型」の奨学金制度によるものが多い。そこで、本研究では、アメリカ合衆国において近年急速に拡大している公立大学の授業料無償化政策の理念、財源、受給要件、給付方法等を調査し、特徴的な州のケーススタディを実施することとした。 最終年度はニューヨーク州およびワシントンD.C.の訪問調査を実施し、その成果を論文にまとめた。2023年現在、州レベルの公立大学無償化政策は32 州で実施されており、無償化の対象に一部の私立大学を含む場合もあるが,多くは公立大学に限定されている。その目的は人口減少・貧困問題といった地方が抱える問題への対処や州の経済発展に資する人材養成という側面が大きい。財源は多様であるが、例えばテネシー州では州教育宝くじ収入が充てられている。ラストダラー型の奨学金は、結果的に中所得層以上の学生の受給者が多くなる点がニードベース型の給付奨学金とは大きく異なる点であるが、逆進的という批判もある。州・地方は財源を確保しつつ,受給要件をどう設定していくのか模索が続いている。
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