研究課題/領域番号 |
19K02898
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研究機関 | 関西福祉科学大学 |
研究代表者 |
久保田 祐歌 関西福祉科学大学, 社会福祉学部, 准教授 (70527655)
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研究分担者 |
池田 史子 山口県立大学, 国際文化学部, 教授 (10275430)
寳田 玲子 関西福祉科学大学, 社会福祉学部, 教授 (00388662)
新原 将義 帝京大学, 高等教育開発センター, 講師 (50802211)
中井 俊樹 愛媛大学, 教育・学生支援機構, 教授 (30303598)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 批判的思考 / 社会福祉専門職 / クリティカルシンキング / 省察的実践 / ディプロマ・ポリシー |
研究実績の概要 |
大学教育において、各学問分野固有の知識・技能の育成と文脈によらず発揮しうる汎用的技能の育成との関係や教育方法が明らかにされつつある。しかしながら、専門職に必要な資質・能力の育成を担う学部ではその明確化が未だ不十分である。そこで、本研究では社会福祉系学部を対象として、汎用的技能のうちの批判的思考に焦点を当て、①社会福祉専門職に必要とされる資質・能力の中に批判的思考を位置づけること、②社会福祉学における批判的思考の教育目標を定め、育成・評価方法の開発を行うこと、③社会福祉学教育において批判的思考力を育成するためのテキスト教材を作成することを目的としている。 上記のうち、本年度は①および②の課題に取り組んだ。まず、昨年度実施した、新任・中堅・ベテランのソーシャルワーク経験者を対象とした、対人援助における思考プロセスに関するグループインタビューについて、研究代表者と分担者で批判的思考の一般的な定義に基づき分析を行った。その結果、判断と情報収集に関する要素、自己覚知に関する要素が抽出された。 さらに、社会福祉教育において育成すべきコンピテンシーについて、大学での社会福祉専門職養成という観点から、代表的な社会福祉系学部のディプロマ・ポリシー(DP)の調査を研究代表者と分担者で行った。教育目標としてのDPについて、社会福祉学分野の「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準」や社会福祉専門職の倫理綱領に基づき分類を行った。 加えて、社会福祉専門職に必要とされる批判的思考については、「根拠に基づく実践」と、D・ショーンの「省察的実践」との二つの側面から捉えることが可能であることから、後者の研究を行った。研究代表者は、「省察的実践」の過程を検討するために、ショーンが概念構築にあたって依拠したデューイの「反省的思考」との比較を行い、「省察的実践」と批判的思考との関連を明確化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、新任・中堅・ベテランの3名のソーシャルワーク経験者を対象に昨年度実施したグループインタビュー結果の分析と検討を行った。批判的思考の一般的な概念をもとに分析を行い、社会福祉専門職における批判的思考に位置づく要素を明確化した。社会福祉専門職に必要とされる批判的思考については、「根拠に基づく実践」と、D・ショーンの「省察的実践」との二つの側面から把握できることが文献調査及び分析結果から明らかとなった。後者を明確化するため、D・ショーンの「省察的実践」概念について、文献調査をもとに批判的思考に位置づく要素の検討を行った。今年度、予定していた新任・熟達者のソーシャルワーカーへのインタビュー調査については、さらなる文献調査により、「省察的実践」における批判的思考プロセスを明確化した後に行うこととした。加えて、「根拠に基づく実践」の側面において、批判的思考として位置づく要素についても文献調査により明確化を行う必要がある。 その他の本年度の取り組みとして、社会福祉専門職を養成する、代表的な社会福祉系学部のディプロマ・ポリシー(DP)の調査を行った。これにより、専門職育成を担う学部の教育目標がどのような観点から設定されているのかを明確化し、教育目標としての批判的思考を検討する上での材料とすることができた。 以上のことから、当初の予定よりも、ソーシャルワーカーへのインタビュー実施が遅れている状況ではあるが、研究としては進捗していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
社会福祉専門職における批判的思考の要素や枠組みを明確化するために、国内外の文献を「根拠に基づく実践」と「省察的実践」の二つの側面からさらに幅広く調査する。その結果と本年度分析したインタビュー結果に基づき、ソーシャルワーカーへのインタビュー枠組みを作成し、聴き取り調査を行う。インタビュー調査については、対面で実施する予定であるが、2021年度も新型コロナウィルス感染症の影響により対面でのインタビュー調査が行い難い状況が続くことが予想される。そのため、対面での実施が難しい場合は、オンラインによる方法も検討し、インタビュイーや調査への影響を考慮しながら可能なかぎりで進める。 研究計画における「ソーシャルワーク教育を通して批判的思考力を育成する教育・評価方法の開発」については、本年度実施した、社会福祉専門職を養成する学部の調査において、代表的な社会福祉系学部のディプロマ・ポリシー(DP)のみを対象としたが、その範囲を拡大し、調査を継続する。社会福祉専門職養成の課程をもつ学部・学科の教育目標を量的・質的に分析することで、批判的思考を教育目標として位置づけるための検討材料とする。 ソーシャルワーカーに必要とされる批判的思考の定義の明確化に時間を要しているため、当初の計画にある、大学での実習教育に関する教員、学生へのインタビュー調査は、再来年度とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウィルス感染症の影響により移動を伴う出張が難しい状況にあり、研究代表者、研究分担者での対面での打合せが実施できなかったこと、参加を予定していた学会がオンライン開催となったこと等により、交通費や大会参加費が不要となったため支出が発生しなかった。こうした状況は2021年度も継続することが予想されるため、旅費としての支出が引き続き発生しないおそれがある。今後、新型コロナ感染症の流行がおさまり次第、予算の使用が必要となる見込みである。 本年度は、批判的思考の要素を明確化するための文献調査を中心とし、インタビュー調査を実施しなかったため、インタビューデータの文字起こし代等が発生しなかった。今後、インタビュー調査の進展に伴い、予算の使用が必要となる見込みである。
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