研究課題/領域番号 |
19K02899
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
須長 一幸 福岡大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (10419955)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アクティブ・ラーニング / スタディ・スキル / 否定的能力 / 対話 |
研究実績の概要 |
今年度は、研究計画上では発問能力に関する哲学的文献研究が中心となる予定であったが、以下の【現在までの進捗状況】で記載したような諸事情から、実質的な文献研究を遂行するに至っていない。一方で、研究代表者の授業実践に基づく開発研究においては一定程度の進捗が見られた。 具体的には、高等教育初年次段階の学生たちを対象とした発問能力育成のためのワークの開発における進捗である。発問能力の向上には、理解の対象となる事象に対し、「分からない」という自覚に加え、「何が分からないのか」という自己の理解の欠落部分に関するメタ認知が重要な働きを担う。そこで、一見する限りでは理解に支障のないような平易な文章のセットを用意し、それらの文章を他者(主に子どもや外国人など、学生と文脈を多く共有しているとは限らないような他者)に説明させることで、いったんは理解したはずのコンテンツについて、それを異化し、「分からない」と相転移させる否定的能力の行使を促す教材を開発するに至った。 同様の趣旨の教材に、野矢茂樹『大人のための国語ゼミ』があるが、これは一般的な(中堅層の)大学の初年次学生には難しいことと、演習問題が少ないことに課題があり、初年次教育のコンテンツとして活用するには制限がある。その点で、本研究が今年度に開発したワークは、より汎用性が高いものであると位置づけることができるだろう。 なお、こうした研究開発とは別に、研究代表者は令和元年度において全学的な授業アンケートの開発研究において学会発表と論文発表を行っている。この授業アンケートはさまざまな層の学生の学習成果を測定・評価するツールとして活用できるものであり、将来的には初年次学生の発問能力に関する到達度を確認する上でも活用できる見通しがある。ただし、こちらの研究は本研究の当初の研究計画に含まれるものではなく、あくまで補助的な位置づけのものとなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和元年度においては、研究代表者が6月に重度の椎間板ヘルニアを発症し、日常生活に大きな困難が生じることとなった。その後、軽微な手術(神経ブロック)を2度行ったが症状の改善が見られず、8月には入院し、大がかりな手術(腰椎椎間板後方固定術)を行うこととなった。退院後も3ヶ月間に渡る行動制約やリハビリの必要性などがあり、結果的に日常生活上の困難はほぼ令和元年度いっぱいにおよんだ。以上のような状況から、実質的な研究時間を設けることが難しかったことが、令和元年度の研究の進捗が遅れた理由である。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、本来であれば令和元年度に実施する予定であった「発問能力に関する哲学的研究」を実施することを主なミッションとし、発問能力に関する文献研究を主体とした哲学的研究をあらためて実施する。 哲学的研究は一般に、困難や混乱をはらんだ概念を解きほぐし、明確にすることを本文とする。本研究事業では、「発問能力」をそうした困難・混乱をはらんだ概念として位置づけ、一般的なスタディ・スキルとは異なる「否定的能力」という特殊な能力としてその分析を行う。 具体的には、発問能力は「~できない(理解できない)」という否定的な能力を要素として含んでいる。そこで、否定的な要素を含む能力の構造解明を中心に、さらに発問が高度に文脈依存的であること、顕在化された情報だけではなく、それらに関連する潜在的な情報群とも強い関連性があることを踏まえ、情報理論や言語学で使われる「冗長性」概念とのつながりをたどる。最終的には、次年度の研究においては機械的な手順によって演繹的に構成できる「アルゴリスティック」なものとしてではなく、むしろ全体論的で「ヒューリスティック」なものとして発問能力を特徴化していくことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
【現在までの進捗状況】でも述べたように、今年度は、代表者本人の急病(重度の椎間板ヘルニアによる3度の手術を伴う入院を含む)により、日常生活に大きな支障が生じたことから、研究計画を大幅に延期せざるを得ない状況となった。そのため、遺憾ながら今年度は本事業にかかる研究の遂行に障害があり、本来であれば今年度遂行すべきであった研究を次年度に繰り越すこととする(最終年度に、「補助事業期間園長承認申請書」を提出予定)。 研究計画は一年ずつ延期し、使用計画も同様に1年ずつの延期を予定している。
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