研究課題/領域番号 |
19K02899
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
須長 一幸 福岡大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (10419955)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アクティブ・ラーニング / スタディ・スキル / 否定的能力 / 対話 / 論理的思考 |
研究実績の概要 |
今年度は、発問能力に関する哲学的文献研究を中心に実施する予定となっていた。しかしながら、今年度のほぼ開始時期に生じた新型コロナウィルスの感染拡大により、研究代表者の所属する大学においても遠隔授業への切り替えが行われ、それに伴うさまざまな学内の学事への対処の必要性が発生した。このような状況から、今年度の研究はかならずしも当初の予定通りの進捗状況とはなっていない。 しかしながら、予定された哲学的文献研究のうち、特に「論理的思考能力」に関する研究については、主にE・F・レディッシュが『科学をどう教えるか』で展開しているあらたな物理教育のスタイルや、伊勢田哲治の「メタクリティカルシンキング」概念の掘り下げを通じて、大学教育学会第42回大会での発表「論理的思考がかならずしも歓迎されないのはなぜか」(発表者:須長一幸)としてまとめられるに至った。この発表は、論理的思考を発揮すべき文脈とはどのようなものか、について論じており、日常から切り離されたアカデミックな文脈でしか発揮できないような仕方でスキルを育成することにたいして批判的な視座を提供するものである。大学の学修によって育成されるスキルは、本来的にはアカデミックな文脈だけではなく、日常にも汎用的に活用され、その生活を豊かにするものであることが期待されるはずである。こうした認識を踏まえ、続く予定の研究においては、論理的思考力、あるいは批判的思考力といった主に諸年次教育において育成の対象となるスキルが、発問のために求められる思考力とどのような関係にあるか、を示唆するものとして位置づけつつ、それらが統合的に日常生活全体の文脈でも適切に発揮できるような育成手法の開発につなげていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
一昨年度は、研究代表者が入院・手術にともなう生活の制限という個人的な状況から実質的な研究活動を行うことが困難であったが、昨年度は新型コロナウィルスの感染の拡大に伴う学事の予想外の増加により、かならずしも十分な研究活動を行うことができなかった。 研究代表者の本務は教育改善業務にあり、所属大学の授業が対面から遠隔に全面的に切り替わることに伴い、学内の教員の遠隔授業にかかる制度の整備、基本的ルールやガイドラインの作成といったマクロレベルの業務や、遠隔授業の実施の支援といったミクロレベルの業務など、関連する業務が膨大に増えるにいたった。こうした状況から、当初予定していただけの研究時間を設けることが難しく、令和2年度の研究の進捗が遅れるに至っている。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、令和2年度に行った「発問能力に関する哲学的研究」の継続と、令和元年度に着手した「発問能力の育成のための初年次教育の教育コンテンツの開発」を行う。 哲学的研究は、引き続き文献研究を中心に実施する。したがって、先行研究の確認と、それらを踏まえた否定的能力としての発問能力の特徴化が中心的なミッションとなる。「否定的能力」については、「穴」のような存在(それ自体は存在者ではないものの、言語的には存在者であるかのように扱われる)をどう捉えるか、という現代形而上学を適宜参照する。 コンテンツ開発については、コロナウィルス感染状況を踏まえ、学外(国内、国外)の視察については極力行わない方向に方針を転換し、主に学内の正課プログラム、ないし正課外プログラムとして初年次学生向けのワークの開発、実施することにエフォートを集中する。 以上、二つの軸からなる研究を推進することが令和3年度の研究の方策である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度は研究代表者本人の急病(重度の椎間板ヘルニアによる3度の手術を伴う入院を含む)による次年度繰り越しがあったが、令和2年度はこうした状況に加えてコロナウィルス感染症の拡大に伴う各種の緊急事態的状況への対応に迫られる、遺憾ながら令和元年度につづく形で研究の遂行に障害が生じた。したがって本来であれば今年度遂行すべきであった研究を次年度に繰り越すこととする(最終年度に、「補助事業期間延長承認申請書」を提出予定)。 研究計画は一年延期する予定であり、使用計画も同様に変更を予定している。また、令和元年度の研究計画を1年順延したことに伴い、令和3年度は海外出張を予定していたが、コロナウイルスの感染拡大防止の観点からこれを中止し、国内の諸大学への視察出張も極力削減する。代わりに、研究代表者が所属する大学での開発研究に注力し、予算は教材開発に関わる書籍・物品の購入にあてる。
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