研究課題/領域番号 |
19K02899
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
須長 一幸 福岡大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (10419955)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アクティブ・ラーニング / スタディ・スキル / 否定的能力 / 発問能力 |
研究実績の概要 |
今年度は、特に「発問能力に関する哲学的文献研究」において大きな進捗が見られた。まず、発問能力の育成に伴う困難に関する哲学的分析の結果を、須長一幸「「問い」を立てる能力とは何か ―高等教育における発問能力の育成に向けた予備的・哲学的考察―」(福岡大学教育開発支援機構紀要第4号,pp.26-39, 2022年2月)にまとめるに至っている。ここでは、「目標構想能力」という概念を構築したうえで、これを否定的能力として特徴化された発問能力の中核をなすものとして位置づけている。目標構想能力とは、所与の情報について、そこに与えられてはいない潜在的な情報やイメージを自ら付け加え、その情報のあるべき方向や姿をイメージする能力である。この能力を、学士課程初年次から段階的に育成していくための具体的な手法の開発が本研究の続いての課題となる。 もうひとつ、「発問」という活動以外でも、目標構想能力は「振り返り」「否定」「仮説形成」等幾つかの場面で中核的に必要とされることも、今年度の哲学的研究によって明らかにされた。求められる目標構想の水準は、これらのそれぞれのアクティビティによって異なっており、たとえば「振り返り」や「否定」の方が発問よりは容易で、「仮説形成」は発問よりも難易度が高い。そこで、まずは「振り返り」や「否定」の訓練を通じてより高度な目標構想能力を養いながら、発問能力の育成を図ることが目指すべき戦略となる。 以上の考察に基づき、「振り返り」については、その研究成果を「大学低学年次の学生を 対象としたPBL科目の実践Ⅲ 対面形式と遠隔形式の比較と振り返りに着目した「問い」の生成」(日本リメディアル教育学会 第13回 九州・沖縄支部大会)で報告した。さらに、「否定」については実践的な初年次教育のコンテンツを開発し、そこでまとめた成果を令和4年度開催予定の大学教育学会で発表を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度は比較的順調に研究が進行しており、成果も得られているが、これまで新型コロナウィルス感染症に伴う学事の予想外の増加によって、研究活動に費やすことのできる時間が大幅に縮減されることとなったため、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、昨年度までに実施してきた本研究の柱である「発問能力に関する哲学的研究」と、「発問能力の育成のための初年次教育の教育コンテンツの開発」を継続して実施する。いずれも令和3年度に順調な進捗が見られているため、基本的にはそれを引き続きて実施することで、一定の成果が得られるものと期待される。 哲学的研究については、令和3年度に構築され、階層化された「目標構想能力」について、それに関連する概念の有無について主に国内外の文献を渉猟しつつ、その概念的肉付けや類似概念との比較を通じた差異化を行いながら、学士課程の初年次教育において広く普及可能な方向を目指して深化をはかる。 コンテンツ開発については、ひきつづきコロナウィルスの感染状況を注視しながら、学内の正課プログラム、ないし正課外プログラムとして初年次学生向けのワークを開発、実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度のコロナウィルス感染症の拡大に伴う各種の緊急事態的状況によって研究計画の遅れが生じ、これに伴って研究費の仕様の繰り越しが発生した結果、研究計画、研究費の使用計画のいずれについても、1年延期する形で変更を行うこととなっている。ただし、変更後の研究の進捗は比較的安定している。 なお、令和3年度に予定していた海外出張はコロナウイルスの感染拡大防止の観点からこれを中止し、国内の諸大学への視察出張も実施しなかった。令和4年度においても、コロナウィルスの感染状況を注視しつつ、原則としては視察出張は行わない予定である。研究は、研究代表者が所属する大学での開発研究に注力する形で行い、予算は教材開発に関わる書籍・物品の購入、およびコンテンツの開発費、作成費にあてることを計画している。
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