研究課題/領域番号 |
19K02933
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
干川 隆 熊本大学, 大学院教育学研究科, 教授 (90221564)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | カリキュラムベースド・メジャーメント / プログレスモニタリング / 学習困難 / 個別指導 / 学習評価 / RTI |
研究実績の概要 |
目的1は、カリキュラムに基づく尺度(CBM)がユニバーサルスクリーニング尺度として、リスクのある児童を早期に特定できるか、であった。そのため尺度の信頼性を確証するために、A小学校の2~6年生の874人に対して6回計算CBMを実施し、尺度としての信頼性について検討した。B小学校では2~6年生の244人に対して25回に渡って、計算CBMと視写CBMを実施し、時間の経緯とともに得点が上昇することを実証した。B小学校で1学期に5回実施した計算CBMの得点で、複数回に渡って-1.0SD以下の児童を支援を要すると判断した。その結果は、教師による評価とも一致した。そのうち保護者の許可が得られた19人の児童に対して、学習の補習時間を利用して小グループによる指導を20回実施した(目的2)。その結果は、計算CBMによってモニターされ児童が小グループによって学習が進捗する状況を把握することができた。学習の大きな成果は低学年では見られたが、高学年では学習内容が複雑になるためにあまり見られなかった。 学習障害等の診断をもつ児童に対しては、個々の認知特性に応じた指導を実施し、その学習の進捗状況を計算CBMと視写CBMを用いて把握した。その結果、CBMを用いて個別の指導計画の長期目標を作成し、その達成を意識した事例では当初設定していた目標を超える児童もみられ、本人自身も目標の達成を意識した取り組みを実施することができた。 これらの結果から、CBMにはユニバーサルスクリーニング(US)としての機能とプログレスモニタリング(PM)としての機能があることがわかった。USとしてCBMを用いる場合には、月に1度の測定でも支援を必要とする児童を特定でき、PMではRTIの第2層や第3層での小グループでの指導や、通級による指導などで学習の進捗状況を把握するために利用できるであろう(目的3)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
一つ目の理由は、大規模校(A小学校)の協力を得て、計算CBMを実施するにあたり前提となる尺度の信頼性について検討することができたことである。これまで中規模の小学校でデータを収集してきたが、その前提となる尺度の信頼性については、確認が不十分であるとの指摘を受けていたことから、今年度信頼性について検討することができた。 二つ目の理由は、中規模校(B小学校)の協力を得て、定期的な学習の進捗状況を測ることができ、さらに支援を必要とする児童に対して、小グループによる学習指導を実施することができた。これにより通常の学級にいる支援を必要とする児童に対して、小グループなどの指導によって、学習の進捗を援助することができ、RTIモデルの第3層での支援の効果を実証することができた。 三つ目の理由は、学習障害と診断を受けた児童を支援する際の個別の指導計画を作成する際に、CBMの実態を踏まえた長期目的を設定して、その目標を意識した指導を実施した。特に、児童自身が毎回の目標を意識し、課題に対する動機づけが高められたことは、予想以上の成果として位置づけられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、1)ユニバーサルスクリーニング(US)としてのCBMの検討と、2)プログレスモニタリング(PM)としての検討を計画している。 1)のUSでは、今年度の成果として、毎週でなくても月に1度の頻度でも、複数回にわたってCBMを実施することによって、学習につまずきのある児童を特定できるかを検討することである。CBMの得点と標準学力検査の得点、さらに教師による評価とを比較することができれば、尺度としての妥当性について検討することができる。 2)のPMでは、小グループまたは個別による指導、通級による指導などで、CBMがどの程度活用できるかについて検討する。具体的には、個別の指導計画を作成するときにCBMの得点を長期目標に設定し、その目標を絶えず意識しながら個に応じた指導を実施し、PMの結果から指導方法の妥当性について検討する。 今後の研究を遂行する上での課題は、新型コロナウイルスの感染防止のために協力校が休校中であり、また再開した際にもどの程度、本研究を計画通りに実施できるかが不明な点である。
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次年度使用額が生じた理由 |
データの分析と入力のために補助員の雇用を予定していたが、新型コロナウイルスの感染予防のために協力校が休校となったため、当初予定していた研究の回数を実施することができず、結果として予定していた謝金が当初の見積もりよりも低くなってしい、次年度使用額が生じてしまった。 次年度には、この額を加えた直接経費の使い方を検討し再配分して、研究を実施する予定である。
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