研究課題/領域番号 |
19K02939
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研究機関 | 昭和音楽大学 |
研究代表者 |
白川 ゆう子 昭和音楽大学, 音楽学部, 講師 (40525101)
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研究分担者 |
伊藤 啓子 昭和音楽大学, 音楽学部, 客員教授 (10460263)
田坂 裕子 鶴見大学短期大学部, 保育科, 講師 (50756880)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 前言語期 / 知的障害児 / 音 / 音楽 / コミュニケーション / 相互作用 |
研究実績の概要 |
コミュニケーションに困難を示す障害児に対して、音楽を通したコミュニケーション支援はこれまでも行われているが、音楽を用いた効果を客観的に検討することは、必ずしも容易ではない。申請者らはこれまでに、音楽場面における支援者と知的障害児のやりとりを分析し、養育者と乳幼児間の言語での働きかけによる相互作用と共通性があることを示唆した。そこで、本研究では、音楽を介した働きかけがコミュニケーションの発達にもたらす効果と、支援現場における音楽の有用性について検証することが目的である。 検証の方法としては、1.すでに実証済みの前言語期の知的障害児に対して行った音楽場面のデータを分析し、明らかになった知見を加えて、今までの研究成果の実証を行う。2.新たに、前言語期の知的障害児数名に対して、音楽を用いた指導場面を設定・介入し、子どもと指導者の行動ややりとり、音楽の分析を行う。 2020年度は2019年度から継続して、1.については、映像記録から、対象児と指導者の行動およびやりとりのすべてをオリジナルの記録用紙に記録した。複数名、複数回の指導場面を記録起こしするため、現在途中段階である。2020年度は、対象児が表現したリズムの分析を行った結果、対象児から特定のリズムパターンが表出されており、指導者が対象児のリズムを模倣することによって笑顔やアイコンタクトなどの情動的反応が見られるようになった。また、対象児から出現したリズムに他者が応答する、相互的なやり取りの活性化とその流れが可視化できた。 さらに、指導者が対象児の好きな曲を歌いかけることによって、対象児の「要求」や「提示」といった積極的な行動が増えたことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、前言語期の知的障害児および定型発達児への音楽を用いた直接的な指導・介入場面の設定は新たには実施できなかった。しかし、映像記録から、対象児と指導者の行動およびやりとりのすべてをオリジナルの記録用紙に転記する作業は概ね予定通り実施することができた。 ここまでの研究成果を学会発表(日本音楽療法学会、日本コミュニケーション障害学会)や紀要等への投稿などによって、報告することができた点は順調だったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度5月現在、神奈川県はまん延防止等重点措置の延長が決定しており、音楽を用いた直接的な指導の実施については、現在未定である。2020年度までに行った記録の分析等に重点を置きたい。 2年間の研究では、リズム遊び場面における対象児と指導者間に生じた相互交渉の経過を追跡した結果、二者間の行動変化には、前言語期の児の養育者に認められるコミュニケーション成立にみられる過程と重なる行動が見いだせた。今後は、さらに長期の縦断データを加えて、音楽的要素であるリズム等が相互交渉の成立にどのような影響を及ぼすのかについて検討を続ける。加えて、複数の対象児の音楽指導場面を分析し、横断的データからも音楽的要素が相互交渉に及ぼす要因について明確化していく予定である。 特に、これまでの研究で示されたリズムパターンの共有(リズム同期)、その共有を微調整する働きかけ(「逆模倣」「発展」「代弁」)、相手の反応を待つ時間的間(「静止」)の出現に重点を置き、重度の前言語期にとどまる障害児のコミュニケーション成立にも典型発達児と同様のプロセスがあることを明らかにしていく。 また、歌いかけを導入することで、対象児の行動に変化がみられたことから、歌いかけがコミュニケーションに困難を示す児の相互交渉に、どのような効果をもたらすかについて、音楽要素の視点からも示していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、前言語期の知的障害児および定型発達児への音楽を用いた直接的な指導・介入場面の設定は新たには実施できなかった。そのため、人件費の支出が抑えられた。また、海外の学会への渡航ができなかったため、旅費の支出が大幅に減額となった。 2021年度については、海外の学会の現地開催がなくなったことから、旅費の支出は減額の見通しがついている。これまでに複数の対象児で実施した音楽を用いた指導・介入場面の記録起こしと、リズム分析および相互作用の分析は引き続き行い、これまでの成果を印刷物にまとめる予定である。
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